2018年原著刊行
2020年創元推理文庫

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 『メインテーマは殺人』に続く名探偵ダニエル・ホーソン&ワトスン役アンソニー・ホロヴィッツの虚実コンビシリーズ第2弾。
 アンソニーはもちろん著者自身であり、ダニエル・ホーソンは創作上のキャラである。
 このシリーズは、作者の実生活を舞台にした、作者自身とその創造したキャラクターの共演という興味深い趣向なのである。
 言ってみれば、シャーロック・ホームズとコナン・ドイル、ミス・マープルとアガサ・クリスティ、金田一耕助と横溝正史が共演し、しかも各作者それぞれの実生活に各名探偵が登場して活躍するようなもの。
 虚構と現実の入り乱れ具合がひとつの読みどころとなる。
 巻頭の登場人物表を見ても実在人物と創作キャラが並んでいて、はたして虚実どっちなのか見分けがつかない者もいる。
 小説創作の観点からも挑戦しがいあるユニークな試みと言える。
 ひょっとしたら、これだけの世界的ベストセラーになってしまうと、創作の世界が現実の世界に多大な影響と変化を及ぼしているかもしれない。

 今回も本格推理小説の王道を行く堂々たるフーダニット。
 離婚専門の一流弁護士を殺害した真犯人を、推理と洞察によって当てる手がかりがきちんと提供されている。
 もちろん、レッドへリング(偽の手がかり)も。
 「読者への挑戦状」こそないが、読者は書かれている内容をもとにホーソンと同じ真相にたどりつくことができよう。
 迷探偵ソルティは半分くらいで「こいつかなあ?」と真犯人の目星がついて、残り1/3くらいで「間違いない」と思った。
 当たった! 
 動機については最後まで確証が持てなかった。

 一つフェアでないと思ったのは(注:ここからネタばれです)、犯人が殺人現場の壁にペンキで書き残した 182 というメッセージについて、それが床からどのくらいの高さにあったかが言及されていない。
 犯人の身長を割り出す一つの手がかりになるわけだから、これは書かなければいけないだろう。
 それともう一つ。
 犯人が弁護士の家に近づくところを、犬を散歩させていた隣人が遠くから目撃する。
 ここで「なぜ犬は吠えなかったか?」は重要な手がかりになりうると思う。(ソルティが容疑者を絞るための最初の手がかりはこれであった)
 著者としてのホロヴィッツは、なぜそれを採用しなかったのだろう?
 まさか伏線を回収し忘れた?

 名探偵ホーソンのホモフォビア(同性愛嫌悪)が、シリーズにわたって解明されるであろう一つの謎として挙げられている。
 今回も『メインテーマは殺人』同様、同性愛カップルが登場し、ホーソンの悪態の標的となる。 
 英国の同性愛をめぐる事情がうかがえるのもこのシリーズ、というかホロヴィッツの小説の特徴であろう。
 ホロヴィッツ自身はアライ(ally=LGBTの理解者)である。



おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損