2018年カナダ
94分
「観たら死ぬ」、「入場料はあなたの命」、「何が起きても自己責任で」といった大げさなコピーで煽る煽る!
「なら観てやろうじゃないか!」と逆にソルティのような物好きが、誘蛾灯に誘われる蛾のように捕まってしまうのである。
はい、一匹確保(笑)
アントラムとはラテン語で「門」の意。
すなわち、地獄の門。
亡くなった飼い犬の魂を救うため、自殺の名所たる不吉な森の中に入っていく美しい姉と弟。
地獄の門をひらくべく、スコップを手に大地を掘っていく。
すると、次から次へと禍々しい事件が勃発し・・・・・。
――といった内容の映画が1979年にアメリカで撮影された。
ハンガリーでの公開初日に映画館が火事になり、観客56人が死亡。
その後も、上映のたびに関係者の不審死や暴動が続き、フィルムは封印され、いつのまにか行方不明になった。
マイケル・ライシーニとデビッド・アミトは、撮影から40年を経てフィルムを発見、これまでの経緯の説明を添えて幻の映画『アントラム』の公開に踏み切った。
――という映画である。
一本の映画の中に別の映画が仕込まれている、いわゆるメタフィクション。
1979年制作の映画というのが実際に撮られたものなのかどうか、上映のたびに各地で起きた怪奇事件というのが本当なのかどうか、そこは観る者の判断に任されている。
ソルティの興味は別のところにある。
この映画の怖さの中核をなすものは西洋文化の共同幻想の最たるもの、すなわちキリスト教の地獄や悪魔のイメージに拠っている。
この映画の怖さの中核をなすものは西洋文化の共同幻想の最たるもの、すなわちキリスト教の地獄や悪魔のイメージに拠っている。
西洋文化圏に生まれ育った人ならば、地獄や悪魔あるいはそれらを表すシンボル(たとえば逆五芒星やヤギなど)に対し、潜在的か顕在的かを問わず、恐怖や忌避感を持っていることだろう。
一方、我々日本人の多くはクリスチャンでないので、それらに対して“現実感”を持っていない。どこか他人事、絵空事である。
たとえば、「羊にくらべてヤギが怖い」という日本人はそうそういないと思う。(ハイジに出てくる「ユキちゃん」のイメージが結構ある)
ソルティはこの映画を観て、『13日の金曜日』のようなサスペンス映画のショッキングシーンで受ける生理的恐怖以上のものは感じなかったけれど、西洋人とりわけクリスチャンは宗教意識にもとづいた根源的恐怖を感じるのだろうか?