2020年アメリカ
86分

 ヤフーの映画レビューを見ると、「だまされた!」的な苛立ちや失望を表明するコメントが多い。
 それは、巧みなプロットに「だまされた!」ではなくて、サイコサスペンスと思って借りたのに普通のヒューマンドラマだったという肩透かしだ。
 確かに、レンタルショップのサスペンスコーナーに置いてあるし、「いかにも」サイコっぽいDVDジャケットだし、「ナンシー」というタイトルもまた『エルム街の悪夢』のヒロインかナンシー関を連想させるし(早見優『夏色のナンシー』というのもあるが)、なんたってサンダンス映画祭出品である。
 ソルティも、てっきりサイコサスペンスだと思ってレンタルした。
 もっとも、作品の出来そのものは悪くなかったので、苛立ちや失望は感じなかったが。
 先日観た『ナイチンゲール』でも同じ錯覚というかトリックに引っかかった。
 たぶん、普通のドラマとして出すよりサスペンスとして売ったほうが買い手の反応がいいことからの販売戦略なのだろう。


ナンシー (2)

 ビッチで病弱な母親と二人きりで暮らす30代のさえない娘ナンシー。
 四六時中スマホやパソコンにかまけ、SNS上で架空の人物になって見知らぬ相手とのフェイクな関係を楽しむのが趣味。
 ある日、母親を失ったばかりのナンシーは、30年前に行方不明になった幼い娘を探しているリンチ夫妻のTVニュースを観る。CGで予想された娘の30年後の顔立ちが自分と瓜二つだった。
 ナンシーは夫妻に連絡を取り、「自分があなた方の娘なのではないか?」と告げる。

 話のメインは、夫妻の家に愛猫とともにやって来たナンシーが、DNA鑑定の結果が出るまで彼らと一緒に暮らす間の三者三様の気持ちの揺れ動きである。
 ナンシーを実の娘と信じたくて、かいがいしく世話する妻エレン。
 信じたいけど疑いがぬぐいきれない夫レオ。
 一方、ナンシーの過去は観る者にはっきりと示されないので、ナンシーの話のどこまでが本当でどこからが作り話なのかが分からない。
 ナンシーは嘘と知りつつ(DNA鑑定でばれることを知りつつ)夫婦をだましたのか?
 それとも、自分でも「もしかしたら?」という一抹の希望のもとに、夫婦のもとにやって来たのか?
 あるいは、ナンシーもまた悲惨な過去や受け入れがたい現在から逃れるために、自分で自分をだましているのか?
 そのあたりは観る者の解釈にゆだねられている。

 孤独なナンシーを演じるアンドレア・ライズボロー、ビッチな母親役のアン・ダウド、娘を失った父親役のスティーヴ・ブシェミ、同母親役のJ・スミス・キャメロン。
 この4人の演技が甲乙つけがたく素晴らしい。
 脚本、映像もレベルが高く、カットの処理も巧みである。
 良い意味で「だまされた!」という印象を持った。
 
 
おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損