『ヨーロッパの都市伝説』(片野優、須貝典子著)に出てきた天才科学者ニコラ・テスラが気になって、彼に関する本を2冊読んだ。
日本では90年代にちょっとしたテスラ・ブームがあったらしく、その後もテレビのドキュメンタリーや科学番組などでたびたび取り上げられたらしいが、ついぞ知らなかった。
① ニコラ・テスラ著『ニコラ・テスラ 秘密の告白』(成甲書房、宮本寿代訳、2013年)
② 新戸雅章著『知られざる天才ニコラ・テスラ』(平凡社新書、2015年)
① はテスラ自身の残した二つの手記――1919年刊行『私の発明:ニコラ・テスラの自叙伝』と題する自伝、および1900年刊行『人類エネルギーを増加させるには』と題する論文――の合本である。もちろん、『秘密の告白』という怪しげなタイトルはテスラ自身がつけたものではない。
成甲書房という出版社は陰謀論、超常現象などのジャンルを得意とするらしく、他にも天童竺丸著『シオンの議定書』、副島隆彦著『フリーメイソン=ユニテリアン教会が明治日本を動かした』、羽仁礼著『永久保存版 超常現象大事典』、後藤よしのり著『間違いだらけのオンナ選び』なんていう、“いかにも”な本を出している。
成甲書房という出版社は陰謀論、超常現象などのジャンルを得意とするらしく、他にも天童竺丸著『シオンの議定書』、副島隆彦著『フリーメイソン=ユニテリアン教会が明治日本を動かした』、羽仁礼著『永久保存版 超常現象大事典』、後藤よしのり著『間違いだらけのオンナ選び』なんていう、“いかにも”な本を出している。
表紙のニコラ・テスラの謎めいた眼差しといい、この科学者の日本での受け入られ方を象徴するような一冊である。
ただ、中味はトンデモなところはなく、テスラの生涯や発明の裏話と共に、その人となりや思想や科学的ヴィジョンの一端が伺える真面目な内容である。
② は日本におけるニコラ・テスラ研究の第一人者と言える新戸雅章(しんどまさあき)による評伝である。
こちらは、生まれ故郷のクロアチア(当時はオーストリア=ハンガリー帝国)や終焉の地アメリカはもちろんのこと、今やヨーロッパでも発明王トーマス・エジソンと並び称される高い評価と人気を得ているにもかかわらず、日本ではまだまだ知名度が低いテスラについて、「より広く深く知ってもらおう」という著者の思いがビンビン伝わってくる力作である。
これ一冊読めば、ニコラ・テスラについて一通りのことが分かるし、他人にも自信を持って“ニコラ語り”することができよう。
こちらは、生まれ故郷のクロアチア(当時はオーストリア=ハンガリー帝国)や終焉の地アメリカはもちろんのこと、今やヨーロッパでも発明王トーマス・エジソンと並び称される高い評価と人気を得ているにもかかわらず、日本ではまだまだ知名度が低いテスラについて、「より広く深く知ってもらおう」という著者の思いがビンビン伝わってくる力作である。
これ一冊読めば、ニコラ・テスラについて一通りのことが分かるし、他人にも自信を持って“ニコラ語り”することができよう。
新戸は1948年神奈川県生まれ。テスラ研究所所長をつとめる。
ニコラ・テスラとは何者か?
① よりプロフィールを引用すると、
1856年7月9日~1943年1月7日。発明家。磁束密度の単位「テスラ」にその名を残す。交流電流、ラジオやラジコン(無線トランスミッター)、蛍光灯、空中放電実験で有名なテスラコイルなどの多数の発明、無線送電システム(世界システム)を提唱した。また、地球全体の磁場を利用し電気振動と共鳴させることで空間からエネルギーを無限に得られる仕組み(フリーエネルギー)を構想していた。8ヵ国語に堪能で、詩作、音楽、哲学にも精通、生涯独身を貫いた。
我々が現在使っている電気は、エジソンが発明した直流システムではなく、テスラが発明した交流システムである。つまり、電気を主要インフラとする現代文明はまさにテスラの築いた土台の上に成り立っている。
テスラさまさまなのだ。
②の新戸によると他にも、
蛍光灯や水銀灯、ネオンサインなどの放射照明、無線電信、電子レンジ、ラジオ、テレビのリモコン、車の電子キー、航空機やロボットの無線操縦、ワイヤレス給電システムなどは、いずれもテスラが発明したか、原理を提供したものである。まことに我々は、テスラのアイデアの中に日々の生活を送っているのだ。
これほどの恩人がなぜ正当に評価されて来なかったのか?
新戸の本から察するに、ナイアガラの滝の水力を利用した壮大なる実験で交流システムを成功させ、かつての師エジソンをうち破って国際的な名声と評判を得たのであるが、その後(人生後半になって)、上記の「世界システム」とやらに固執したあたりから現実離れの様相を呈し、逆にテスラの特許を利用した後輩科学者が次々と実用的な発明を世に送り賞賛を浴びるようになり、次第に「過去の人」となっていったようだ。
石炭や石油はもちろん、水力・風力・原子力にも頼らないフリーエネルギーを空間から取り出し、そのエネルギーを無線で世界中に瞬時に送るという「世界システム」は、当時も(今も?)あまりにも突飛すぎているし、既存のエネルギー業界にしてみれば何としてもその実現を阻みたいアイデアに違いあるまい。逆風必至。
そのうえ、観客の度肝を抜く派手な放電ショーを各地で繰り返して魔術師のようにみなされ、殺人光線や人工地震発生装置開発の噂も独り歩きし、山師かいわゆる「マッド・サイエンティスト」の如くみなされていったようだ。日本で長らくオカルト文脈で語られることが多かったのはそのためであろう。
また、同時代の発明家であるエジソンやマルコーニのように商魂たくましくなかったところも、世間から忘れられやすい一因だったのかもしれない。(最後は困窮のうちにホテルの一室で亡くなった)
さて、天才と言えば奇癖や奇行がお約束である。
テスラもまた歴史上の天才たちに負けず劣らず、たいそうクセが凄かった。
- 人の髪には触れられない。
- 女性のイヤリングが嫌い。
- 歩くときには歩数を数える。
- 食べる前にスープ皿、コーヒーカップ、食べ物の体積を測らないと、美味しく食べられない。
- 同じ行動を繰り返す。そのとき必ず3の倍数回しないと気が済まない。
- 設計図を書かずに頭の中で装置を完璧に組み立てて、一気にアウトプットできる。
- 極度の潔癖症。
- 幼い頃から、たびたび幻視、幻覚、幻聴に襲われた。
生涯独身であったのは、こういった事情もあったのかもしれないと新戸は推測している。(ゲイ説もあり)
今回、ニコラ・テスラについて調べてソルティが最も興味深く思ったのは、実は彼の発明に関するエピソードでも、華やかな交友関係でも、奇癖や奇行でも、毀誉褒貶さまざまな生涯でもなかった。
上記の通り、テスラは幼い頃より幻覚に悩まされていたのだが、現れる心象(イメージ)はいつも現実との区別がつかないほどのリアリティを持っていた。
自分の見ているものが現実のものなのか幻覚なのか分からないことが、彼を不快にも不安にもした。
そこで、彼は何らかの心象が目の前に現れたとき、それがどうやって出現したのかを観察する習慣を“第二の天性”のごとく身に着けた。
その結果、あることに気づく。
実は、あるものの心象が目の前に現れるとき、事前にそれを思い出させるようなものを見ていたのだ。初めのうちは、ただの偶然だと思ったが、まもなくそうではないと確信するようになった。心象が目に見える前に、意識的に見るのであろうと無意識のうちに見るのであろうと必ず、何かの光景が思い浮かんでいたのだ。
次に私が気づいたのは、実際に前もって何かを見た結果として何かの心象が浮かぶのだが、それと同じような方法で考えも浮かんでくるということだ。そこでまた私は、その考えを抱くきっかけを突き止めたいと思うようになった。
これだけではない。自分の動きはどれも同じように突き動かされているせいなのだとまもなく気づいた。これまで私が一つひとつ考え、行動を起こすことで歳月を重ねながら行ってきた継続的な探究も観察も実証もすべて、私が動力を与えられた自動機械(オ-トマシン)だから、外部から感覚器官への刺激にただ反応し、それに従って考え、行動し、運動しているゆえであることを示していたのだし、今でも日々示している。そのことに私は十分納得した。自分の動き、考え、あるいは夢がもともと何の影響を受けたせいなのかが突き止められなかったのは、人生のなかで一度か二度しかなかった。
私たちは自動機械(オートマシン)であって、私たちを取り巻くものの力で完全に制御されている。コルクのように水面に放り投げられているのに、外部からの刺激を受けた結果を自由意志だと誤認するのだ。運動やほかの行動は常に生命維持のためのもので、見かけ上は互いに無関係であるようだが、見えない絆で結びついている。
なんと、ここでニコラ・テスラは、「人間は無意識によって動かされている自動機械に過ぎない。自由意志は錯覚だ」と言っているのだ。
ベンジャミン・リベットが『マインド・タイム 脳と意識の時間』で示唆したこと、トニ・パーソンズや阿部敏郎などのノン・デュアリティ(非二元)の覚者らが述べていること、ブッダが因縁や諸法無我という言葉で説いたことと同じ、すなわち「自我の否定」である。
これこそまさに「秘密の告白」の名に値する ‼
上記の哲学を持つがゆえに、ニコラ・テスラは人間とまったく同じ機能を持つ自動機械、いわゆる A I ロボットの制作が可能と考えたのである。
つまり、ソルティという一人の人間の“様々な刺激に対する外的内的な反応パターン”を徹底的に調べ上げて精密なプログラムをつくり、それを優れた工学性を備える A I ロボットにダウンロードすれば、ソルティそっくりの反応パターンを示すソルティ2が生まれる。
次に、ロボットを動かすエネルギーの問題であるが、ここで空間から無限に取り出せるフリーエネルギーを利用すれば電力は必要ない。ロボットが壊れない限り、動作し続ける。フリーエネルギーは人間で言うところの「命」に相当しよう。
最後に、ソルティ2に一つの指令(自己参照回路)を組み込む。
COGITO ERGO SUM (我思う、ゆえに我あり)
ソルティという人間とソルティ2というロボットの違いはどこにあるだろうか?
ニコラ・テスラは人間を創造しようと考えていたのだ。
おそるべし、二コラ。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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