1972年松竹
90分

 少女が四国遍路する話というので借りてみた。
 懐かしい景色が観られるかな~と思って・・・。
 
 が、残念ながら少女の歩いている場所が四国のどこなのかほとんど見当がつかず、画面に映し出される美しい自然風景や家並みにも見覚えがなかった。
 主人公の少女が歩いた70年代初めの四国と、ソルティが歩いた2018年の四国とでは、あまりに変貌著しく、わずかに高知の海岸沿いの岩塊そそり立つ光景だけが、「こんな感じのところを通ったな」と思い返すのみであった。
 南国ならではの明るい光だけは、半世紀近く隔てても変わりなかった。


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今ではこのように舗装されていない道自体が少ない


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愛媛の段々畑(少女は逆打ちしている)


叶崎光景
2018年の遍路で歩いた高知の海岸(足摺岬の西側)

 家庭環境に悩んだ16歳の少女が、自宅のある愛媛の新居浜を出発し、一人巡礼の旅に出る。
 途中、白装束のお遍路と出会い、道々お接待を受け、ふらりと入った街(松山あたりか?)の映画館では痴漢に遭い、ドサ回りの役者連中と数日過ごす間に一座の男に襲われ、女にレズビアニズムを仕込まれる(若い女性の遍路行はかくもスリリングである)。
 高知の海辺の町で栄養失調に倒れた少女は、魚の行商をしている中年の男(=高橋悦史)に助けられ、介抱を受けるうちにいつしか男女の仲になっていく。

 主役の高橋洋子はこれがデビュー作。
 応募者2000人近いオーデションで秋吉久美子と競って勝ち取ったという。
 撮影当時18歳。
 素朴で健康的で瑞々しい。
 砂浜での全裸シーンやレズビアンシーンにも果敢にチャレンジしている。
 この2年後に熊井哲監督『サンダカン八番娼館 望郷』に抜擢され、女衒にだまされてボルネオの娼館に売られる「からゆきさん」を、やはり体当たりで演じている。
 女優としてたいへん恵まれたスタートを切ったのである。


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主役を競った秋吉久美子と高橋洋子
秋吉にとってもこれがデビュー作となった

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高知の容赦ない陽射しと青い海は遍路を解放的にする
(ソルティも実は全裸で泳ぎました


 旅芝居一座の座長を三國連太郎が演じている。
 上手さは言うまでもないが、息子の佐藤浩一との相似にびっくりした。

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三國連太郎(当時39歳)


 よしだたくろうの『今日までそして明日から』をBGMに、野宿もいとわず自然の中を歩き、いろいろな人との出会いを重ねて自分探しをする少女の姿は、まさに60~70年代のヒッピー文化を彷彿とする。
 70年代初頭の日本の地方の風景が切ないほど美しい。
 こんな豊かな旅はもうできない。
 日本列島改造計画やバブルを通過して国土はすっかり変わってしまったし、日本中どこにいてもインターネットから逃れられない。
 たとえば、見知らぬ美しい少女が砂浜で全裸になっているところを見かけたら、スマホを取り出して隠れて撮影する不届きな輩がいることだろう。
 そして、それをSNSに投稿するだろう。
 またたく間に少女のヌードは世界中に配信されて拡散し、多数の「イイね!」を獲得し、その砂浜はどこで、どこの海か、映っている少女はどこの誰なのか、特定する者が現れることだろう。
 翌日には、少女を一目見るために(あわよくば性的欲望を満たすために)、全国から暇な男たちが四国遍路に押しかけるやもしれない。
 少女は旅を続けることができなくなるであろう。
 
 今や、“旅行”はできても“旅”は難しくなった。
 
 
おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損