2015年中国、台湾、香港
106分
中国語

 『童年往事』(1985)、『悲情城市』(1989)のホウ・シャオシェン(侯孝賢)はソルティの最も好きな映画監督の一人であるが、ここ30年とんと追っていなかった。個人的には『悲情城市』で頂点を極めたという印象がある。
 撮影本数も2000年に入ってからグッと減って、この『黒衣の刺客』は8年ぶりの新作という。(その後は今のところない)
 
 映画史に残る名監督の8年ぶりの新作で、カンフー系のアクション時代劇という触れ込みで、第68回カンヌ国際映画祭の監督賞を獲り、日本からはブッキーこと妻夫木聡が出演しているというのに、話題になったという記憶がない。
 なんでだろう??と思いながら観たのだが、答えは簡単。
「つまらなかった」

 8世紀の群雄割拠の中国が舞台というだけでも歴史をよく知らない者には背景がわかりにくいのに、登場人物の関係性がややこしく、同じような民族衣装をまとった役者の顔も見分けがつかず、筋書きもつかみづらく、登場人物が何を考えどう感じているのか捉えにくい。脚本(監督自身による)が不親切なのだ。
 そこにホウ監督ならではの緩慢で濃密な時の流れを映したカットが続くので、何度か寝落ちするところであった。

 最後まで見続けられたのは、やはり映像の素晴らしさに尽きる。
 中国王宮ドラマの色彩の美しさはもとより、風、火、水、木、煙、光といった自然の揺らぎを敏感に捉えて映し出す手腕は、監督デビューの頃から変わらずに健在であった。
 映画を観る至福が一方にあり、ドラマに入り込めない苛立ちが一方にある。

 独自のスタイルを持つ監督が自他ともに認める巨匠となり、周囲の人間が誰も忠言できなくなる、監督も周囲の助言に耳を傾けなくなると、えてしてこういった独りよがりに陥りがちである。
 このつまらなさは世のカンフー系アクション映画に対する冒瀆であろう。
 芸術映画というならまだ許せる気もするが・・・。


IMG_20210619_142333
どういう役柄かいっこうにわからない中国人?の妻夫木聡
(とりえず大監督の作品に出演できて良かったね)



おすすめ度 :

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損