初出1974~1994年
2001年集英社
2004年集英社文庫

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 諸星大二郎が25歳から45歳に描いた10の短編が収録されている。
 タイトル通り「彼方」という言葉によって統一されうるような異界物ばかりであるが、SFあり怪談ありギャクタッチありシュールあり古代中国あり人類初期のアフリカあり・・・とジャンルもテーマも幅広い。もちろん、それぞれの話に応じて絵のタッチもまったく異なる。
 読みながら、つげ義春と伊藤潤二と赤塚不二夫と永久保貴一を想起したけれど、諸星大二郎は諸星大二郎である。大変ユニークで傑出した才能に恵まれた人。
 
 自選だけのことはあって読みごたえのある傑作が並んでいる。
 いっぺんに読んでしまうのがもったいなくて、一日一編と決めてじっくり味わいながら読んだ。
 また、一つ一つが濃すぎて、続けて読めるものでもない。

 人間が自ら産んだ人工物と融合してしまう不条理世界『生物都市』、わらべ唄「通りゃんせ」に隠された恐るべき秘密『天神さま』、ダリのごとく奇抜で奔放な創造力が冴える『ど次元世界物語』、古代中国の詩人・陶淵明を主人公とするオカルトファンタジー『桃源記』、ジェンダーと性に切り込んだ意欲作『男たちの風景』、恐ろしさと不思議さと懐かしさとがないまぜになった奇妙な味わい『カオカオ様が通る』等々、ソルティの遅すぎる諸星デビューとなった『暗黒神話』同様、作者の天才と日本漫画界の豊穣を知らしめるに十分な一冊である。

 遅すぎはしない。
 諸星大二郎をこれから踏破する幸せが待っている!



おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損