2012年幻冬舎新書

 市原悦子主演『家政婦は見た!』ばりの家庭内ドロドロミステリーではなく、実際の介護ヘルパーすなわち介護保険の訪問介護員によるリアルな体験記である。
 副題は「世にも奇妙な爆笑!老後の事例集」。

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 著者は東京の某訪問介護事業所に所属する、この道20年以上の現役ヘルパー。
 1000人を超える要介護高齢者と出会ってきた。
 在宅ヘルパーの労働条件の向上を目指し公の場で発言したり、掃除・洗濯・買い物などの生活援助を介護保険から外そうと目論む厚生労働省に抗議の足を運ぶなど、現場と政策を結びつける活動もしている。
 「るか」という名前は、イエス・キリストの生涯を記した『ルカによる福音書』から取られたそうで、著者自身クリスチャンである。
 本書ではそうした出自を匂わすようなスピリチュアルな話は控えられているが、著者の奉仕精神の源に宗教的なバックグラウンドがあるのは間違いなかろう。
 認知症高齢者など個性豊かな利用者とのエピソードが楽しい。
 
 本書が出版されたのは2012年。
 その時点で著者は、上記の“生活援助外し”や“訪問ヘルパーの滞在時間の短縮”などを企む国の方針に対し怒りの声を上げている。
 10年近くが経ったいま、介護保険制度の改正(改悪?)はさらに進み、生活援助こそ制度から外されてはいないものの、比較的介護度の低い要支援者の「訪問介護」と「通所介護」については、もはや国の管轄にはなく、区市町村で行う事業へと移行している(2015年~)。
 区市町村の限られた予算で実施しなければならないわけで、地域格差やサービスの質の低下が問題視されている。
 国はどうやら要介護者の「訪問介護」と「通所介護」についても同様の方針でいるらしい。
 つまり、ホームヘルプとデイサービスを介護保険から外してしまおう、という魂胆である。

 また、介護保険サービスを利用するためにはケアプランを作成する介護支援専門員(いわゆるケアマネ)のいる事業所とマネジメント契約をする必要があるが、現在自己負担なしで利用できるケアマネジメントが今後有料化する気配もある。
 明らかに介護保険の利用者を減らしたいのだ。

 むろんこれは、高齢化が進むにつれ膨らむ一方の介護給付費(令和2年度3兆 3,838 億円)を抑制したいという大義名分からなのではあるが、どうなんだろう?
 公的な介護保険サービスでまかなえないところが、たとえばNPOや企業など地域の民間サービスで同等の価格で代替できるのならよいが、そうでないと結局、要介護者の家族にしわ寄せがくる。(家族の世話を“しわ寄せ”と言ってはいけないが・・・)
 高齢者の一人世帯や核家族世帯が増えている日本では、親の介護のために離職せざるを得ない、いわゆる「介護離職」につながる。
 すでに家族の介護・看護が理由で離職する者は年間約10万人という。
 40~60代の働き盛りの人が社会の一線から退くことは、少なくない経済的損失を招き、日本経済の減速を招く。
 つまり、負のループ=悪循環にはまり込んでしまう。

 介護や医療のサービスは、もはや電気や水道やガスや道路と同様のインフラなんだと思う。
 命や健康や生活の質に直結する分野の予算を削るよりも、もっと先に削減してもいいところがたくさんあるはずだ。

車椅子とステレス機
安倍政権がアメリカから購入した最新鋭ステルス戦闘機・F35
1機116億円を147機(1兆7052億円)爆買い




おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損