2020原著刊行
2021年ハーパーコリンズ・ジャパン発行

IMG_20210720_094911


 ロンドンを舞台とする刑事ミステリー。
 工事現場の穴から発見されたボストンバッグに入っていたのは、死んで間もないアジア系少女の頭蓋骨。
 退職を目前とする刑事マクニールは、少ない手がかりをもとに謎の解明に挑むが、その行く先々で重要参考人が次から次へと変死を遂げて行く。
 頭蓋骨の科学調査から重大な事実を発見し、恐るべき真相に気づいたマクニールの身辺にも危機は及び・・・・・。

 ――といった内容で、これだけなら凡庸な話なのであるが、この小説には大がかりな仕掛けが施されている。
 それこそ、タイトルが示す通り「ロックダウン」されたロンドンが舞台、すなわち死亡率80%の新型ウイルスが猛威を振るい、わずか数ヶ月で死者50万人超え(その中には英国首相も含まれる)、医療は崩壊し、暴徒が店を略奪し、軍が街を警備し、交通機関はストップし、マスクをつけ他人との接触を避ける市民は抗ウイルス薬だけを頼りに家に閉じこもる、という悪夢のごとき非日常世界の中での出来事なのである。

 この小説が書かれたのは2005年。
 「あまりにも非現実的だ」という理由で出版を見送られたそうだ。
 非現実的がまさしく“現実”となったがための緊急出版。
 まったく何が起こるかわからない。
 少女(中国人だった)の死が実は新型ウイルスの発生と関係していて、その背後には血も凍るような組織の陰謀があった・・・・・という真相も“現実”にならないといいが。

ウイルス


 いま世界中で起こっている新型コロナウイルス騒動をあたかも予知したかのような想像力とリアリティある描写は見事。
 読んでいて、同じロンドンを舞台としたドキュメントであるデフォー作『ペスト』を想起したが、元ネタはそこかもしれない。
 ゾンビパニックと本格ミステリーを結合させたのは今村昌弘『屍人荘の殺人』であるが、本作はウイルスパニックと刑事ミステリーを結合させたのである。
 その思いきった発想は買うものの、物語の収束の仕方が弱い。
 真犯人とついに対峙し追跡する場面におけるマクニールの行動はあまりに愚かで、プロらしさに欠けていて、あきれるばかり。
 ゲイのカップルや生意気な鑑識の女子インターンなど、著者が快く思っていないらしい(描き方に毒がある)登場人物が全員殺されてしまうのも、著者の偏向とご都合主義を感じさせる。
 大風呂敷を広げたわりには・・・・・という読後感が残った。
 新型コロナがなければ、たしかに発行されることはなかったろう。



おすすめ度 :★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損