2020年三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売
別記事で紹介した『交通誘導員ヨレヨレ日記』(柏耕一著)と同じ「3K仕事、内幕暴露日記シリーズ」(ソルティ命名)の一冊。
副題に『こうして私は職業的な「死」を迎えた』とある通り、イギリスへの留学経験含め英語力を身に着けるための熱心な武者修行の果てに憧れの出版翻訳家になった著者が、一時は訳者として関わった本(スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』)がベストセラーになり多額の印税と“引く手あまた”の栄光を手に入れるも、出版業界の独特にして理不尽きわまる慣行に振り回されて怒りとストレスをためてバーンアウト、ついには翻訳業から手を引く決心をするまでの波乱含みの経緯を記している。
この場合の「3K」とは、「きつい、契約がずさん、金にならない」だろうか。
10代の頃から創元推理文庫や早川書房の本格ミステリーが好きで、大学では英文科に籍を置いたソルティも、「翻訳家になろうかな」と一時思った(魔が差した)ことがある。
自らが発見した欧米の傑作ミステリーを、自らの手で訳して紹介し、それが書店に並んでベストセラーとなって、優雅な印税生活ができたら素晴らしいじゃないか、と夢想したのである。
出版社に言われた締切りさえあるものの、好きな時に好きな場所でマイペースで仕事できて、会社勤めのような人間関係に悩まされないところもポイント高かった。
しかし、どうやったら翻訳家になれるんだろう?
どうやって仕事を手に入れるんだろう?
食っていけるだけの収入はあるのだろうか?
そんな疑問が胸をよぎった。
本書の魅力の一つは、そういった疑問に十分こたえてくれているところである。
出版翻訳家という職業の実態と過酷な労働事情と出版業界の闇(病み)――とりわけインターネットが登場して「出版不況」が叫ばれるようになってからのジリ貧――を教えてくれる。
なるほど、翻訳家にならなくて良かった・・・。
私は本書で、ただ単に自分の不遇を嘆きたかったのではない。私には何がなんでも伝えたかった重要なメッセージがあった。ひと昔前までの私は金銭欲も名誉欲も旺盛な俗物であった。だからこそ欲望に惑わされて関わってはならない人や出版社と関わり、さまざまな「地獄」に陥った。そしてその「地獄」の底で私は金銭も名誉も幸せを保証するものではないことを悟った。
著者は現在、警備の仕事をしているという。
もとい警備の仕事を馬鹿にするわけではないが、著者が時間と金と気力をかけて長年磨き上げた英語力が活用されないのは、とてももったいない気がする。(ハッ!自分もそうか
)

本書の発行を機に、新たな仕事とこれまでとは景色の異なる人生が展開することを祈念するものである。
著者自身がかつて霊感と驚異的な集中力でもって訳した成功哲学の聖典『7つの習慣』の真価を、いまこそ見せてほしい。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損