2004年日活、東映
121分
原作は高村薫の同名小説。
1984-85年に世間を騒がせたグリコ・森永事件を題材とした社会派ミステリー。
犯人(キツネ目の男)が捕まらずに時効になってしまった同事件であるが、元グリコ関係者説、株価操作をねらった仕手グループ説、被差別部落民説、作家の宮崎学説、元暴力団組長グループ説、北朝鮮工作員グループ説など、さまざまな憶測が飛び交った。
真犯人が捕まらなかったのは、一味に身内(現職警官)がいて捜査情報を流していたからではないかという説もある。
本作では、レディ・ジョーカーを名乗る犯人グループのメンバーとして、部落差別当事者を身内にもつ男、在日朝鮮人、重度障害の娘をもつ男、ブラック企業で働く男、所轄の刑事の5人――演じるは順に、渡哲也・吹越満・大杉漣・加藤晴彦・吉川晃司――を組ませて、いわば日本社会の底辺で生きる者たちの復讐劇といった色合いを出している。
彼らのターゲットとなるのは、グリコならぬ日本を代表する一流洋酒メーカーである日之出ビール。
なので、観る者にとっての正義は、被害者である日之出ビールや犯人を追う警察側にあるのではなく、庶民の代表たるレディ・ジョーカー側にある。
社会の負け組による報復――その意味では、タイトルの一部を同じくするアメリカ映画『ジョーカー』(2019)に先駆けていると言えよう。
主演の渡哲也も渋くていいが、やさぐれた刑事を演じる吉川晃司が印象的。
80年代アイドル(デビュー曲『モニカ』)が、こんなにいい役者になっていたとは知らなかった。
誘拐される日之出ビール社長・城山恭介役の長塚京三、副社長役の岸部一徳も存在感あって素晴らしい。
ストーリー的にはアラが目立つ。
辰巳琢郎演じる社長の弟が、なぜ自殺を選んだのか説明が見当たらない。
吉川晃司演じる刑事が、なぜ徳重聡演じる合田刑事に執着するのか分からない。
企みが成功し20億という大金を手に入れたのに、重度障害の娘を捨て去る父親(大杉漣)の心理描写も粗雑である。
レディ・ジョーカー5人それぞれが犯罪計画に乗ろうとする動機や背景がじっくり描き込まれていないため、「部落や在日や重度障害というレッテルさえ出せば犯行動機として十分だろう」といったステレオタイプ化された(=観る者の差別意識に阿った)安易さを感じる。
原作ではおそらく細かい描写があるのだろうが・・・・。
ジョーカー(=ヨアキン・フィニックス)をキレさせるに至ったえぐいほどの悲惨さ、あるいはハンセン病差別を背景とする『砂の器』の慟哭に達する哀しみと比較したときに、この腰が引けたような粗雑さは残念至極。
おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損