2021年新潮社

 『閉鎖病棟』、『聖灰の暗号』の帚木蓬生がオウム真理教の犯行の全貌を描いた半ノンフィクション小説。
 生物兵器・化学兵器に詳しい九州大学医学部の沢井教授を語り手に置き、毒物の専門家の視点から一連の事件を総括している。(実際にオウム真理教事件の際に活躍した井上尚英教授がモデル)

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 綿密な取材と該博な知識をもとに書かれた力作であるが、ソルティのような医学素人の一般読者には難しすぎる。
 松本サリン事件を描いた前半はそれほどでもないが、地下鉄サリン事件を描いた後半からは、サリンを始めとする毒物の特性についてのくだくだしい説明や、あたかもカルテのような被害者の症状の記述が延々と続き、専門的になりすぎて読み進めるのが困難であった。

 オウム真理教の実態というよりも毒ガス被害の臨床報告みたいになってしまって、期待した内容とは程遠い。
 帚木自身が医師である上に同じ医師を語り手としたこと、すなわち医師の二乗が、この残念な結果につながっているようだ。
 もっと社会学的あるいは心理学的見地からのオウム真理教という団体や信者の解析、あるいは麻原彰晃や実行犯となった幹部らの心理分析、患者としてでなく生活者としての被害者を襲った悲劇のありよう、そして90年代という時代を背景とした一連の事件の意味付けが読みたかった。
 精神科医である帚木にそれを期待したのは見当違いではあるまい。 

 はたして新潮の編集者は原稿に目を通した段階で、このままでいいと思ったのだろうか?
 このような記録文学を目していたのだろうか? 
 
 図書館で予約を入れてから順番が来るまで数ヶ月、かなり期待して読み始めたのであったが、泣く泣く途中放棄した。

 


おすすめ度 :

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損