2012年スターサンズ(日本)
100分

 ヤン・ヨンヒの小説『朝鮮大学校物語』が面白かったので、借りてみた。
 本作は同年のキネ旬1位、ブルーリボン作品賞を獲っている。
 日本アカデミー賞にはノミネートすらされなかったのはなぜ?
 
 朝鮮総聯幹部の父の勧めで16歳で家族と離れて北朝鮮に渡ったソンホ(=井浦新)。
 結婚し、いまでは一児の父である。 
 彼の地ではできない脳腫瘍の手術を受けるため、25年ぶりに日本に戻って来られることになった。
 慈父のような金主席の配慮で3ヶ月という特別滞在許可が下りたのだ。
 人が変わったように無口で笑わなくなったソンホを温かく迎える母(=宮崎美子)と妹リエ(=安藤サクラ)、そして旧友たち。
 しかし、ソンホの帰国生活は同志ヤンによる監視付きで、そのうえリエを北朝鮮のスパイとしてスカウトするよう命じられていた。兄の言葉に傷つき、激しく拒絶するリエ。
 数日後、手術の見込みも立たないまま、突然なんの理由もなく帰国命令が出て、家族はまた離れ離れになる。 

 主演の安藤サクラは本作で主演女優賞を総ナメにしたが、それも納得の好演技。
 樹木希林の衣鉢を継ぐのはやっぱこの人だ。
 井浦新はこれまで注目したことがなかった。雰囲気のいい役者である。
 宮崎美子演じる母親(おそらく在日2世)も、安藤や井浦演じる子供たち(おそらく3世)も、言葉や仕草の点で在日コリアンの演技としてはどうなのかな?――と一瞬思ったが、ソルティがステレオタイプの在日コリアン像(それと分かる1世の人の言動より抽出された)を知らず身に着けているだけと気づいた。お恥ずかしい・・・。
 
チマチョゴリ


 1910年の日韓併合によって、労働力として日本に強制連行されたのが在日朝鮮人の始まりと言われる。
 その当事者や家族、子孫ら約10万人は、1950年代から1984年にかけての壮大な帰還事業で北朝鮮に永住帰国した。
 当時、北朝鮮は「地上の楽園」と言われていたのである。(吉永小百合の代表作『キューポラのある街』にこのへんのことが描かれている)
 蓋を開けてみたら、その実態は楽園とは正反対の金一族の独裁体制による生き地獄。
 もはや自由は微塵もなかった。
 結果的に、「在日」として不当な差別や抑圧を受けながらも、日本に残ることを選択した者たちのほうが賢かったのである。
 こんな皮肉な話もあるまい。
 
 同じ朝鮮民族が、朝鮮戦争による分断の結果、あるいは北朝鮮に生き、あるいは韓国に生き、あるいは在日の子孫として韓国語を忘れて日本に生き、あるいは朝鮮人の誇りを胸に帰国して北朝鮮に生きている。
 いったいどの朝鮮人が一番幸せなのか?
 まるでユダヤ民族のそれのような朝鮮民族の受難に思いを馳せざるを得ない。
  
 日本人がこうした歴史を教えない、教わらないのは罪としか言いようがない。

  
 
おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損