1980年角川春樹事務所/TBS制作
156分日本語、英語、ドイツ語
〽イツ ノッ ツレート ツスターラゲーン(It’s not too late to start again)
――というジャニス・イアンの主題歌が耳に残る小松左京原作のスペクタクルSF映画。
40年前に観たきり、すっかり内容を忘れていた。
人類が破滅し、生き残った一組の男女(草刈正雄とオリビア・ハッセ―の超美男美女カップル)が砂浜で再会するという感動のラストシーンは覚えているが、「そもそもなぜ人類は破滅に至ったか」を忘れていた。
今回見直して、映画のサブタイトル(英語版タイトル)に VIRUS とあったことに気づいた。
そう、致死性ウイルスが原因だったのだ。
時は東西冷戦たけなわの1982年、生物兵器として某国で造られたウイルスMM88が輸送途上の墜落事故で漏出してしまい、その地域の動物から人へ、人から人へ、国から国へと感染し、またたくまに全世界に広がって、35億(当時の世界人口)の人間とほとんどの脊椎動物の命が奪われていく。わずか数ヶ月で、南極大陸の各国基地で働く約800人をのぞいて、人類とその文明は滅亡した。MM88はマイナス10度以下で不活性化するのである。生き残りをかけて連帯し、ワクチン開発やたった8名の女性頼りの種の存続計画など、新たなルールのもと奮闘する極地の人々であったが、脅威は終わっていなかった。生命のいなくなった不毛の大国アメリカのホワイトハウス地下では、愚かな軍人官僚によって解除設定された核ミサイルの自動報復装置が、地震によって作動し、ソ連を含む世界中に核ミサイルが撃ち込まれてしまう。連動するようにソ連の自動報復装置も起動し始める。標的の中には南極も入っていた。
原作は今から半世紀以上も前の1964年に刊行されている。
前半はまさに新型コロナウイルスの発生とその猛威を予言していたかのような展開。
緒形拳演じる医師や多岐川裕美演じる看護師たちが、際限なくやって来るMM88感染者の対応に身も心も疲れ果てて、仕事場である病院の休憩室でへたばっている場面は、現在のコロナ専門病棟もかくやと思わせる。
MM88の主症状が肺炎であるというのも恐ろしさを煽る。
映画史上初の南極大陸ロケ、多数の外国スター含む豪華キャスト実現、メインのセリフは英語、山となった死体に覆われた都市の風景、エキストラ大量動員のパニックシーンなど、並大抵でない予算と手間ひまがかかったであろう。
この小説を映画化するために会社を継いだという角川春樹の意気込みと、ヤクザ映画でアクションシーンや大人数を動かす腕を鍛えた深作欣二監督の底力を感じる作品である。
エンターテインメント性も十分で、156分という長さを感じさせない。
どうしても気になってしまうのは、主役の草刈正雄の演技。
ジョージ・ケネディ、グレン・フォードなど並いる外国ベテラン役者の中に混じって、観ているこちらが恥ずかしくなる稚拙さ。
うっかりすると、人類滅亡という作品の深刻なテーマと黙示録的ムードを破壊しかねないレベル。
アイドルばりの端正な美貌と爽やかすぎる笑顔が、かえって仇となっている。
「人類が破滅したのに、白い歯見せて笑ってるんじゃないよ」と思わず突っ込みたくなる。
もちろん、今や堂々の実力派人気俳優の一人であるのは知っての通り。
当時の草刈の人気の高さと外人に引けを取らない身長の高さ(185㎝)が、この抜擢の理由だったのだろう。
あるいは、80年代は華のある若手男優の払底期だったのかもしれない。
オリビア・ハッセ―は日本人に人気の高い女優であった。
白い肌にストレートな黒髪の美しい、バタ臭くない清楚な容姿もさることながら、歌手の布施明を亭主に選んでくれたことで、日本男性に潜む外人コンプレックスを払拭する働きをしてくれた。
ソルティは、フランコ・ゼッフィレリ監督の『ロミオとジュリエット』(1968)が忘れられない。
映画史上最高のジュリエットであろう。
半世紀前に観たときから、ジャニス・イアンの歌う主題歌「ユー・アー・ラブ」の歌詞の最後が不明であった。
英語ではないらしく、“トューザ キムシャ”とか聞こえるのだ。
今回調べてみて、Toujours gai mon cher というフランス語と分かった。
直訳すると、「いつも元気に、愛する人よ」
「お元気で」「お達者で」といったところか。
ウイルスは確かに怖い。
だが、もっと怖いのは人と人、国と国との不信や憎み合いや理性の喪失である。
小松左京はそう教えてくれる。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
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