1952年新星映画社
129分、白黒

 原作は野間宏の同名小説。
 反戦映画であるが、舞台となるのは激しい戦闘が繰り広げられる外地の戦場ではなく、初年兵などの軍事教練の場である大阪の兵営である。
 野間宏も山本薩夫監督も従軍経験があり、実体験に基づいた迫力ある描写に慄然とさせられる。
 真空地帯とは、一般社会から隔絶された軍隊の謂いである。

 きびしい規律と上下関係に支配された軍隊内に日常的にはびこる暴力や私的制裁(リンチ)、閉鎖された環境で起こる洗脳や群衆心理、利権がらみの組織の腐敗などをリアルに描いて、軍隊という組織の怖ろしさを暴いている点では、大西巨人の小説『神聖喜劇』と双璧である。
 ものの本によると、大西は野間の『真空地帯』を批判し、両者の間で激しい論争が繰り広げられたとか。
 ソルティは、それぞれの作品を映画とコミックとでしか触れていないのでいい加減なことは言えないけれど、戦争や国家主義という共通の敵を前にして論争しなければならないほどの大きな違いがそこにあるとは思えなかった。
 「自分こそ正しい」という固執こそが不和と戦いの種であろうに、まったく男ってやつは・・・・。
 戦争の一番の原因はマウンティングしたがる男(♂)の本能にあるとソルティは思っている。
 男の頭の中には理性がすっ飛んでしまうような真空地帯があるのだ。(むろんソルティにも)
 まあ、机上で論争できるのは世の中が平和で表現の自由があるからこそ。
 そこを忘れない遊び心が肝要である。

 主役で刑務所帰りの木谷一等兵を演じるは木村功。
 なんだか誰かに似ているなあと思いながら観ていたが、歌手の長渕剛だ。
 内向する生真面目さと暗い眼差しは、島崎藤村『破戒』や三島由紀夫『金閣寺』の主人公にも合っていたと思われる。(どちらも雷様こと市川雷蔵に取られてしまった)
 木谷の唯一の理解者であるインテリ一等兵を演じるは下元勉。
 繊細な表情が印象に残る好演。
 木谷が刑務所に収容されるきっかけをつくり、のちに復讐される林中尉を加藤嘉が演じている。
 このとき嘉さん39歳、彫りの深い外人のような風貌。
 年齢相応の役は珍しいのではないか。
 
 加藤嘉と下元勉には驚くべき共通点がある。
 二人とも大女優・山田五十鈴の亭主だった。  
 
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加藤嘉と木村功



おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損