2019年カナダ
84分
8歳のジョシュは、優しい両親と何不自由なく暮らす感受性の強い男の子。学校で孤立し、いつの間にか空想上の友達と遊ぶようになる。それがZである。(本作の原題は『Z』)最初は気にしなかった母親エリザベスであったが、ジョシュの問題行動があらわになり、周囲に不可解な現象が続くようになって、恐怖と不安に襲われる。もしかしたら、Zは実在するんじゃなかろうか?旧知の精神科医に助けを求めたエリザベスは、驚愕の事実を伝えられる。Zはもともとエリザベスが子供の頃に作りだして一緒に遊んでいた友達であり、エリザベスはくだんの精神科医の治療を受けていたのだった。彼女はなぜかその記憶を失っていた。
そう、Zの真の標的はジョシュではなくて、エリザベスだった。
一見、超常現象オカルトサスペンスである。
Zを孤独な少年少女に憑りつく悪霊と取れば、リンダ・ブレア主演『エクソシスト』に通じる。
エリザベスやジョシュに救いの手を伸べるのが修練を積んだエクソシスト(悪霊払い)ではなく、精神科医であるところが、現代的と言える。
結局、精神科医の手には負えず、エリザベスは自殺未遂したあげく精神崩壊、Zはジョシュの“見えない友達”として存在し続けることを暗示する、すっきりしない陰鬱なラストが待っている。
エリザベスの夫はZに殺されてしまうし、家は火事になるし、何も解決していない。
ハッピーエンドと程遠いのはともかく、謎が解明されないまま終わってしまう。
Zとは何だったのか?
ハッピーエンドと程遠いのはともかく、謎が解明されないまま終わってしまう。
Zとは何だったのか?
一つのホラー作品として観た場合、観る者にまったく理解もカタルシスももたらされないので、失敗作と評価されてもおかしくはない。
しかるに、心理サスペンス&家族ドラマとして観た場合、非常に解析欲をそそる題材となっている。
ソルティは、通常モードで1回、2倍速で2回観て、手がかりを探してしまった。
そう、普通のオカルトドラマなら必要ないような細部のエピソード、とくにエリザベスの生まれ育った家庭にまつわる描写が多く、どうも普通のオカルト映画以上のなにかがあるように思えてしまうのである。
ソルティが気になったいくつかのポイントを上げる。(ここからネタバレになります)
- エリザベスには腹違いの妹ジェナがいる。ジェナは母親との間に確執があるらしく、母親の最期を看取ることができない。今は独り身でアルコールに溺れる荒れた生活をしている。
- 死の床にあるジェナの母親は、見舞いに来たエリザベスの示す好意を拒絶する。むろん、血のつながっていない義理の娘ではあるが、なにかそれ以上の理由が隠されているように見える。
- エリザベスとジェナの父親は、二人が子供の頃に家の中で首つり自殺をしている。エリザベスはそれを発見したらしい。(彼女の記憶喪失はこの時のショックからかもしれない)
- 母親(義母)が亡くなったあとの実家で、壁に飾られた父親の写真を見たときから、エリザベスとZとの再会が始まる。
- エリザベスの実家に連れていかれたジョシュは、祖父の自殺現場に引き寄せられてしまう。(自殺の事実をおそらくは知らないのに)
- Zは破壊的で独占欲が強い。
- 精神科医は子供の頃のエリザベスの臨床風景を録画していた。そのビデオの中でエリザベスは、「お父さんが好きでない。Zと結婚する」と発言している。
- Zの嫉妬からジョシュの身を守るために、エリザベスはジョシュを妹に預け、Zと二人きりの生活を始める。途端に彼女は幼児化し、あたかも子供の頃の自分に戻ってしまったかのよう。
- 義母の残したウエディングドレスを着てZとの結婚式をあげるエリザベス。テレビ画面に映る古いビデオ映像を憎々し気に見つめる。そこには義母と父親との結婚式の模様が流されている。
- 精神科医は言う。「子どもが空想上の友達を作る原因の一つは、現実との間に壁を作る必要があるから」
- Zは最初は妖怪のような恐ろしい姿をして現れるが、最後には首に何かを巻いた裸の男の姿になって出現する。
- エリザベスはZとベッドを共にしている。
上記5 祖父の自殺現場を凝視するジョシュ
実の母親を失ったエリザベスは、独占欲の強い父親から夜毎に性虐待を受けていた。
その現実を認めたくないため、エリザベスは空想上の友達をつくり、それをZと名付けた。
実の父を拒絶し、Zを理想の父(恋人)とした。
実の父を拒絶し、Zを理想の父(恋人)とした。
父親は再婚し、ジェナが生まれた。ジェナの母親は、夫とエリザベスの関係に薄々気づいていた。(ゆえにエリザベスを受け入れることができない)
その後、父親は自害する。その光景を見たエリザベスはショックから幼児期の記憶を失う。義母の目を盗んで父親と関係を持ったことが自殺の原因と思い、無意識下に強い罪悪感を抱えこむ。
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大人になったエリザベスは結婚し、ジョシュが生まれる。
大人になったエリザベスは結婚し、ジョシュが生まれる。
義母の病と死をきっかけに、抑え込んできた幼児期の記憶が浮上する。(あるいは抑えつけられていたZの霊が解放される)
相手が実の父であったことを受け入れられないエリザベスは、それをZの仕業ととらえる。
エリザベスは、Zを相手に幼児期の父親との関係を反復し始める。
つまり、Z=エリザベスの父親、というのがソルティの解釈である。
そう考えると、幼児化したエリザベスが、部屋にやって来るZとベッドを共にするシーンが、何とも言いようのない痛々しさで迫ってくる。
勝手に深読みして、勝手に不快な思いを抱いているのだから世話ないが。
おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損