2017年新潮社刊行
2020年新潮文庫
ほんの165ページ、2~3時間もあれば読み通せるミステリーで、書簡体つまり二人の人間の手紙のやり取りでストーリーが進むので、非常に読みやすい。
ソルティは外出中に立ち寄ったカフェでランチしながら、おもむろにページを開き、流れに引きずり込まれ、コーヒーのお代わりをしつつ、全編を驚愕とともに読み終えるまで、そのままカフェに居座ってしまった。
飲食店に長居は無用の昨今なのに・・・・





ファイスブックを介した30年ぶりの男女の邂逅。二人はかつて恋人同士で、結婚を決めた仲。だが、結婚式当日に花嫁は会場に現れず、そのまま音信不通となった。いったい花嫁に何があったのか?
失意の花婿のその後の人生はいかに?お互いの人生を決定的に変えてしまった謎、そして今となっては解明されたところでせんかたない謎をめぐって、二人のなつかしくも忌まわしい思い出話が展開する。二人が出会ったのは大学時代。演劇部の先輩後輩の間柄にあった。
これ以上の中味については触れないのが礼儀というものだろう。
つまらない出来の良くないミステリーならば、がんがんネタバレして欠点をあげつらいたくもなるが、本作は完成度が高く、スリリングで面白い。
ラストが近づくにつれ、加速度をつけて変転していくストーリーと盛り上がっていくサスペンスは比類ない。
そして、ついに明かされる花嫁失踪の真相。
この衝撃、ぜひ味わってもらいたい。
著者の宿野かほるは覆面作家で、プロフィールは非公表とのこと。
デビュー作となった本作は、新潮社への原稿持ち込みによるらしい。
詮索したところでなんの意味はないけれど、ソルティが推察するに、
- おそらく現在40~50代の女性(昭和40年代生まれ)
- 過去に演劇をやっていたことがある
- 関東圏在住
- 出身は静岡か?
- フェミニスト
最後のフェミニストってところが、本作の一つのポイントである。
本作は、ある意味、男と女の性的な事柄に対する感じ方や、愛に対する意識、罪や噓に対する感覚の違いがあぶり出される小説である。
なので、読み手が男であるか女であるかで、かなり異なった印象なり感想なりがもたれる可能性が高い。
いや、「男か女か」と固定すること自体、ジェンダー差別かもしれない。
フェミニストかそうでないかで読後感は相当違ってこよう。
その点で、乾くるみの『イニシエイション・ラブ』と響き合うところがある。
読者を唖然とさせるどんでん返しも然り。
おすすめ度 :★★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損