1929年原著刊行
1971年東京創元社(高橋泰邦・訳)

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 江戸川乱歩推奨の古典中の古典。
 本書が一躍有名になったのは、1984~85年に日本中を震撼とさせ、犯人が捕まらないまま2000年に時効となったグリコ・森永事件の折であった。菓子類への毒物混入に関して犯人がヒントを得たのがこのミステリーではないか、と言われたのである。
 ソルティは未読だったので、そのときに買って読んだ。
 今回ページを開いたら内容をまったく忘れていた。
 もちろん、真犯人が誰かも。
 おかげで新鮮な気持ちで読むことができた(笑)

 本作は構成そのものに特徴がある。
 アガサ・クリスティの『火曜クラブ』のように、同じ一つの事件の真相をめぐって、探偵好きな男女6人が推理合戦するという趣向なのだ。
 もっとも、『火曜クラブ』はミス・マープルを主人公とした連作短編集であり、書かれたのは本作よりもあと(1932年発表)である。
 住んでいる村の中のことはやけに詳しくても外の世界についてはほとんど知らないような老嬢ミス・マープルが、警視総監や法律家や流行作家など世故に長けたライバルたちを毎回見事に打ち負かして真相を探り当ててしまう。同様に本書ではアンブローズ・チタウィックなる一見さえない無名の人物が、世間的に名の知られた警部や弁護士や推理作家などの鼻を明かして真相を暴き出す。
 当時の著作権事情は知らないが、現在だったら、クリスティはバークリーのアイデアを剽窃したと非難されるのではなかろうか。バークリーにとっては面白くないことに、後発の『火曜クラブ』のほうが今となっては広く読まれている。

 そこに探偵が6人いれば6通りの着眼点があり、物の見方があり、考え方があり、6つの推理があり、6人のホシと思しき人物が誕生する。
 人は各々の性格や知識や経験や職業などに応じて、同じ一つの事件をさまざまに解釈してしまう。
 探偵自身がバイアスになる。 
 そういった人間心理と認識の仕組みの面白さを追求したところに、本作の古典としての風格がある。



おすすめ度 :★★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損