2014年草思社文庫
著者は1947年生まれのエッセイスト。団塊の世代である。
本著は『定年後のリアル』(2009年)の続編とのことだが、前著は読んでいない。
なんでこの本を購入した(ブックオフで)かと言えば、ソルティが高齢者の介護に関わって、そこでは徐々に団塊の世代(1947~50年生まれ)の要介護者が増えてきているからである。
介護の仕事を始めた約10年前は、大正から昭和ヒト桁生まれの利用者が多かった。
いわゆる戦前・戦中派である。
歌レクで言えば、童謡をのぞけば、藤山一郎『青い山脈』、霧島昇『旅の夜風』、美空ひばり『悲しき口笛』、高峰三枝子『湖畔の宿』、並木路子『リンゴの唄』あたりが定番であった。
もちろん、介護保険サービスが利用できる65歳以上の昭和フタ桁世代、あるいは65歳未満でも特定の疾病(認知症、パーキンソン病、関節リウマチ、脳梗塞など16種類が指定されている)を持っているがゆえに介護保険適用となる人たちもいるにはいたが、その数は少なく、並みいる先輩方に混じってフロアの片隅で小さくなっていた。
10年経って、いまや団塊の世代の先陣は2022年に75歳、後期高齢者になる。
要介護の人たちも当然増えて、大正生まれと入れ替わるように、介護サービスの主要な顧客となってきている。
ソルティは介護施設の現場を離れてしまったが、歌レクもそろそろ『神田川』(1973年)、『なごり雪』(1975年)、『22才の別れ』(1975年)などフォークソングや、タイガースなどのグループサウンズを中心にレパートリーを変えていかなければならないだろう。
そんなわけで、利用者のことをある程度知っておいたほうが仕事に役立つだろうと思って、団塊の世代のことを学ぼうと思った次第である。
この世代に対しては、世間一般の最大公約数的イメージしか持っていない。
- とにかく数が多い。ゆえに競争心が強い。
- 議論好きで権利意識、政治意識が高い。
- 学園紛争、全共闘の思い出を心の底で反芻している。
- ヒッピー文化やロック文化など反体制的な志向も強い。
- 戦争を知らず高度経済成長の恩恵をフルに受けているので、基本的に前向きで楽天的である。
- 女性はウーマンリブやフェミニズムの影響で自立心が強い。
- 吉本隆明、埴谷雄高、手塚治虫、吉田拓郎(あるいは井上陽水か矢沢永吉)、吉永小百合あたりが神様。
もちろん、こういった世代観はマスメディアが作り上げた紋切り型のレッテルであり、実際には生まれや育ちや性格や人生経験によってひとりひとり違うのが当然で、十把一からげにするのはよろしくない。
対人支援はあくまで対象者の個別性を尊重するのが原則である。
対人支援はあくまで対象者の個別性を尊重するのが原則である。
本書の著者に団塊の世代を代表させることはできないし、団塊の世代の特徴を著者一人によって語ることもできまい。
そのあたりを踏まえて読んでみた。
そのあたりを踏まえて読んでみた。
よくある老い方指南本を期待していると、肩透かしを食らう。
十年一日変わり映えのしない著者の平穏な日常がたらたらと書き綴られているだけで、定年後の生き方を模索する他の人が読んでも、とり立てて役立つことが書かれているとは思えない。
読者に対して、「こういうふうに老後を生きる(老いる)べきだ」「こういうふうに考えると楽になるぜ」といった建設的な提言があるわけではなく、著者のポジティブな思考や姿勢が行間からあふれていて読者を力づける――こともなさそうだ。
十年一日変わり映えのしない著者の平穏な日常がたらたらと書き綴られているだけで、定年後の生き方を模索する他の人が読んでも、とり立てて役立つことが書かれているとは思えない。
読者に対して、「こういうふうに老後を生きる(老いる)べきだ」「こういうふうに考えると楽になるぜ」といった建設的な提言があるわけではなく、著者のポジティブな思考や姿勢が行間からあふれていて読者を力づける――こともなさそうだ。
その意味で、たとえばベストセラーになった森村誠一『老いる意味、うつ、勇気、夢』や、上野千鶴子『おひとりさま』シリーズ、曽野綾子の一連の老い方指南本とは逆座標にある。
これらの著者の本は、どうしたって“社会的にも経済的にも成功した有名人による(上から目線の)老い方指南”と受け取らざるをえないからだ。
これらの著者の本は、どうしたって“社会的にも経済的にも成功した有名人による(上から目線の)老い方指南”と受け取らざるをえないからだ。
一方、本書は、金もなく人脈もなく、これといった「生きがい」も野心も持たない一人の平凡な60後半の男の日常がたんたんとリアルに描かれるのみで、「こんなふうになんにも持たない、毎日テレビばかり見てなんにもしない人間でも、じんわり幸福を感じながら生きているぜ」という内容。
脱力系老後とでも言おうか。
脱力系老後とでも言おうか。
本書の読者は、圧倒的に同世代の男であろう。(活字好きも団塊の世代の特徴の一つ、というか最後の“活字文化崇拝”世代だろう)
続編が望まれるほどには著者の本がそこそこ出ているのは、テレビ朝日『人生の楽園』に描き出されるような「理想の老後」的なものにうんざりして(あるいは絵空事と感じて)、著者の脱力系老後の実況中継にホッとする人がいるからではなかろうか。
誰しも『人生の楽園』の主人公になれるわけではないよな~。
誰しも『人生の楽園』の主人公になれるわけではないよな~。
おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損