1978年毎日放送
各55分×3回

 京マチ子の演技が素晴らしかった『犬神家の一族』に続き、同じシリーズの『女王蜂』を40数年ぶりに再見。
 演出の富本壮吉は三島由紀夫原作の『獣の戯れ』(1964年)を撮っている。
 むろん、金田一耕助は古谷一行である。
 
 本作は推理ドラマとしては凡庸なのだが、伊豆沖の孤島に住む源頼朝の血を引く美しき令嬢・大道寺智子に魅せられた男たちが、女王蜂に群がる雄蜂のごとく無残に命を奪われていく。しかも、謎解明のカギは20年前に起きた智子の父親の死にあるらしい――という大時代にしてドラマチックな設定が読者や視聴者の興味を引く。
 2度の映画化、5度のTVドラマ化がその証拠である。
 
 ソルティの一番の関心は、女王蜂と名指されるほどの絶世のカリスマ美女・智子をどの若手女優が演じるか、そして智子の家庭教師で本ドラマの影の主役たる神尾秀子をどの芝居達者な女優が演じるか、という点に尽きる。
 これまでの7作のカップリング(智子―神尾)は以下のごとし。

 1952年映画  久慈あさみ―荒川さつき
 1978年映画  中井貴恵―岸惠子
 1978年テレビ 片平なぎさ―岡田茉莉子
 1990年テレビ 井森美幸―小川知子
 1994年テレビ 墨田ユキ―沢田亜矢子
 1998年テレビ 川越美和―池上季実子
 2006年テレビ 栗山千明―手塚里美
 
 個人的には、智子役のベストは栗山千明、神尾役のベストは岸恵子なのであるが、両者揃って及第点と思えるのは、この1978年テレビ版ということになる。(ただし、1952年版は観ていないし、女優のことも知らない) 
 当時デビュー間もない19歳の片平なぎさのはち切れんばかりの若さと匂い立つような美しさは眼福もの。
 子どもの頃リアルタイムで見た時は、「絶世の美女ってほどじゃないじゃん」と辛らつな見方をしていたが、40年以上経た今見ると、「これなら周囲の男たちが浮足立つのも無理ないなあ」と素直に思える。
 つまり、片平なぎさはデビュー当初、年下や同年代の男の子向けのアイドルとして売り出したけれど、それは戦略ミスであって(思ったほど売れなかった)、実際のところは川島なお美同様の中年キラー、オジサマ受けするタレントだったのである。
 だから、後年になって中高年視聴者が多い2時間ドラマの女王足りえたわけである。
 19の彼女を「ぬあんて可愛いんだ!」と思うソルティもすっかりオジサマになった。

 2時間ドラマ絡みで言えば、本作の冒頭とラストシーンの舞台は、海に浮かぶ月琴島の断崖絶壁の上である。
 なぎさの崖ストーリーはここから始まっていた。

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左から、片平なぎさ、長門勇、古谷一行

 子供の頃は玩味するすべを持たなかった大人の役者の魅力も、40年経た今ようやく味わえるようになって、脇をつとめるベテランの上手さというのに新鮮な驚きを覚えた。
 日和警部役の長門勇と山下巡査役の三谷昇のコミカルな味、岡田茉莉子のグレタ・ガルボばりの目の演技、新劇で鍛えた南美江の安定感と発声の見事さ、時代劇などの悪役(「おぬしも悪よなあ~」)でならした川合伸旺の凄み、神山繁のダンディな渋さ・・・・・昭和の俳優ってやっぱり素晴らしい。

 だいたいテレビドラマの最盛期は70~80年代にあると思うのだが、当時、各映画会社の撮影所で育てられドラマづくりのノウハウを一から学んだ役者や演出家やスタッフらが映画業界の斜陽と共にテレビ業界に入り込んで、一線で活躍していた。
 映画と比べてテレビは馬鹿にされていたけれど、それでも令和の現在のテレビドラマと比べたら、役者の演技も演出も美術も撮影も音楽も、質の差は歴然。
 本作に横溢する70年代日本の空気が妙に懐かしいのは、ソルティの懐古趣味ばかりでなく、失われたアートに対する哀惜なのだ。

 それにつけても、予告された殺人を阻止するために大道寺家にやって来た金田一耕助の目の前で、5人の男が殺され、1人が自害し、当人も頭を殴られ大事な鍵を盗まれるという体たらく。
 今さらではあるが、名探偵ではないよな・・・・。

 
 
おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損