1985~1993年初出
2005年集英社文庫
『妖怪ハンター 地の巻』に続いて購読。
古事記や日本書紀、民話(瓜子姫、花咲爺)、怪談『番町皿屋敷』、童謡『通りゃんせ』に材を取ったストーリー性の濃い中編が収録されている。
一方、ジャンボ旅客機の墜落事故(『花咲爺論序説』)やパナウェーヴ研究所を連想させる白衣の女性教祖率いるカルト集団(『天孫降臨』)など、時事ネタっぽいのを取り入れてリアリティと興趣を担保しているのはさすが。
もっとも、1985年の日航機123便墜落事故はともかく、統一教会やオウム真理教やパナウェーヴ研究所がマスコミで騒がれたのは上記の作品発表よりあとのことである。
諸星が時代の空気を鋭敏に嗅ぎつけている証拠であろう。
その意味で、諸星作品に特徴的と思えるのは、時事的テーマを扱うことがあっても、またそうでなくても、作品を通じて社会問題を提起するとか倫理を問いただすというような気配がまったく見られない点である。
上記の場合で言えば、大手の飛行機会社の杜撰な管理体制を暴くこともないし、カルト教団の危険性を読者に訴える意図も感じられない。
時事ネタは単なる物語のきっかけとして周縁的に扱われるだけであって、そこから社会批判なり政治批判なり文明批判なりが引き出されることがない。
これは、民俗学や歴史学の該博な知識をもとにオカルト漫画を描く、諸星大二郎の直系ともいえる後輩漫画家・永久保貴一の場合とくらべると分かりやすい。
永久保作品では、民俗学や歴史などに材を取り、そこにオカルティックな味付けや霊能力や呪術などのサイコキネスを駆使できる人物を登場させ、勧善懲悪のエンターテインメントを創り上げる。
しかもそればかりでなく、何かしらの社会問題性が余韻として残るものが多い。
たとえば、反戦、環境問題、小児虐待、差別、政治の腐敗といったような・・・。
もっともわかりやすい例は『カルラ舞う!』であろうか。
物語を単なる勧善懲悪に終わらせない、悪役が単なる悪役のままで成敗されない、深みのようなものがある。
人間社会の構造悪を描いている――とでも言おうか。
それに比べると、諸星の徹底した非・社会問題性は不可解な気がするのだ。
彼が1949年生まれの団塊の世代であることを考えると、なおさらに。
団塊の世代でも、全共闘つまり学園紛争に関わったのは大学進学組の15%弱のエリートであったので、団塊の世代=政治意識が高いとするのは性急に過ぎるのだろうか。
諸星は、高校卒業後進学せずに公務員になったというから、いわゆるノンポリだったのかもしれない。
別に、作家はもっと社会問題に目を向けるべきとか、諸星作品より永久保作品のほうが上等だとか、そんなことを言うつもりはまったくないし、作家にはそれぞれの関心やスタイルがあるのが当然で「諸星は諸星で十分すぎるほど偉大」なのは間違いないのだが、不思議と言えば不思議・・・・・。
収録品の中では『天神さま』が一番の傑作。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損