1991~1995年初出
2005年集英社文庫

 令和3年の大いなる収穫の一つは、諸星大二郎と出会ったことだ。
 「今まで縁がなかったけれど、試しに一冊読んでみるか」と手に取った『暗黒神話』でカミナリに打たれたような衝撃を食らい、その後、『自選短編集 彼方より』でギャグや怪談やSFや中国文学ありのテーマの幅広さと作画タッチの多彩ぶりに目を瞠り、安部公房風のシュールな『壁男』ですっかりファンの一人になってしまい、三鷹で開かれたデビュー50周年記念の個展にいそいそと足を運び、ついに満を持して、諸星の代表作&ライフワークたる『妖怪ハンター』に踏み込んだ。
 こうしてみると、ソルティもなかなかの凝り性。 

 古くからの諸星ファンにしてみれば、あまりに遅いデビューは「あんた、目がついている?」と小馬鹿にされそうであるが、これからまだまだ沢山の傑作・怪作・奇作・珍作との出会いが待っている宝の山が目の前にあることを思うと、「手をつけずに残しておいて良かった」と喜びもひとしおである。
 読書に漫画に音楽に映画に山歩き・・・・この5つの趣味があれば、それなりに楽しい老後を生きていけそうな気がする。(それにしても、みんな独りでできるものばかり)


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 『妖怪ハンター』第3弾は、「水の巻」という副題通り、海や淵を舞台とする怪談揃い。
 海と言えば、すべての生き物の母であり、すべてを包み込む(飲み込む)女の比喩である。
 おのずと、「女」が事件の鍵となるような母性的・官能的なストーリーが集まっている。
 女性ヌードやセックスシーンも多い。 
 発表媒体が少年誌でなく青年誌(『ウルトラジャンプ』他)であることが、そのような挑戦を可能にしたのであろう。

 諸星の描く「女」は、実に生々しく、毒々しく、美しい。
 寡聞にしてよく知らぬが、この世代(諸星は1949年生まれの団塊の世代)の男で、ここまで「女」を生々しく描く漫画家がいるだろうか?
 いや、他の世代を見渡しても、すぐには思い浮かばない。
 ジョージ秋山や小島功や上村一夫の描く色っぽい「おんな」や酸いも甘いも知った「おとな」の女性とは違う。
 もっと根源的な生理的なところで生々しく毒々しい。
 なんとなく、諸星大二郎は女性恐怖のところがある(あった)のではないか。

 収録作では、文字通り怪物的な母性愛がほとばしる『産女の来る夜』と、あまりにも不気味で罰当たりな『六福神』が面白かった。
 さすがに、この六福神には初夢に出てきてほしくない。

 良いお年を!

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令和3年の厄を連れていってください!