禅僧で平和活動家のティク・ナット・ハン(Thich Nhat Hanh)が、1月22日母国ベトナムで亡くなられた。享年95。

 30代はじめに師の著作に会っていなかったら、ソルティはおそらく仏教徒になっていなかっただろう。
 師が造られた“インタービーイング(interbeing、相互共存)”という言葉こそは、諸法無我にして空にして因縁の教えなのだと、今になって理解できる。
 行動する仏教(Engaged Buddhism)の提唱者にして実践者であると同時に、2000年以上前のブッダの教えを、分かりやすい美しい比喩で伝えることのできる稀有なる詩人であった。
 師が広めたマインドフルネスの教えは、今や世界中のたくさんの人の生きる指針となっている。

 師の偉大なる事績を讃え、ソルティがもっとも好きな詩を追悼掲載します。

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私を本当の名前で呼んでください


私が明日発つと言わないで
なぜって いま もうすでにここに着いているから

深く見つめてごらんなさい 私はいつもここにいる
春の小枝の芽になって
新しい巣で囀りはじめた
まだ翼の生え揃わない小鳥
花のなかをうごめく青虫
そして石のなかに隠れた宝石となって
 
私はいまでもここにいる
笑ったり泣いたり
恐れたり喜んだりするために
私の心臓の鼓動は
生きてあるすべてのものの
生と死を刻んでいる

私は川面で変身するかげろう
そして春になると
かげろうを食べにくる小鳥

私は透きとおった池で嬉しそうに泳ぐ蛙
そしてしずかに忍び寄り 蛙をひと飲みする草蛇

私はウガンダの骨と皮になった子ども
私の脚は細い竹のよう
そして私は武器商人 ウガンダに死の武器を売りに行く

私は12歳の少女
小さな舟の難民で
海賊に襲われて
海に身を投げた少女
そして私は海賊で
まだよく見ることも愛することも知らぬ者

私はこの両腕に大いなる力を持つ権力者
そして私は彼の「血の負債」を払うべく
強制収容所でしずかに死んでゆく者

私の喜びは春のよう
とても温かくて
生きとし生けるもののいのちを花ひらかせる
私の苦しみは涙の川のよう
溢れるように湧いては流れ
四つの海を満たしている

私を本当の名前で呼んでください
すべての叫びとすべての笑い声が
同時にこの耳にとどくように
喜びと悲しみが
ひとつのすがたでこの瞳に映るように

私を本当の名前で呼んでください
私が目ざめ
こころの扉のその奥の
慈悲の扉がひらかれるように


出典:『微笑みを生きる <気づき>の瞑想と実践』 
ティク・ナット・ハン 著
池田久代 訳
1995年春秋社刊



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