1999年角川ホラー文庫

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 クリムゾン (crimson)とは濃く明るい赤色で、若干青みを含んで紫がかる。英国では伝統的に血の色と関連付けられ、暴力・勇気・苦痛を連想させるという(ウィキ『クリムソン』による)。

 本作は、勇気はともかく、暴力と苦痛だけはイヤって言うほど描かれるサバイバル・ホラー。
 『悪の教典』にしろ『新世界より』にしろ、ゲーム感覚な非ヒューマニズム生き残りストーリーを書かせたら、貴志祐介に勝る作家はおるまい。
 いや、極限状態におかれた人間の姿こそがもっとも人間の本質に近い――という意味では純ヒューマニズムなのか?

 藤木芳彦がふと目を覚ますと、雨天の下、クリムゾンの奇岩に囲まれた異様な世界に放置されていた。
 いったい、ここはどこだ? 俺に何があったんだ?
 傍らに置かれている携帯用ゲーム機を作動させると、メッセージが現れた。
「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された」
 藤木は、自分と同じようにわけもわからず拉致された他の日本人8名と合流するのだが、それは血で血を洗う凄惨な殺戮ゲームの始まりに過ぎなかった。

 このおぞましいサバイバルゲームが展開される舞台となるのは、火星ならぬオーストラリアのパーヌルル国立公園。その広さ 239,723 ヘクタール。
 日本で一番小さい香川県が 187,700ヘクタール。大阪府に次いで3番目に小さい東京都は 219,100ヘクタール。
 東京都がすっぽり入る公園を埋め尽くす褐色の縞模様の奇岩群――それがバングルバングル
 もちろん世界自然遺産である。

バングルバングル
バングルバングル

 作品発表時(99年)には日本人にほとんど知られていなかったパーヌルル国立公園に関する貴志祐介の綿密な取材ぶりに感心する。

 世界は広い。
 自然はきびしい。 
 そして人間は恐い



おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損