収録年 1997年
会場  コヴェントガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス(ロンドン)
管弦楽 同劇場管弦楽団
指揮  クリストフ・フォン・ドホナーニ
演出  リュック・ボンディ
キャスト
 サロメ :キャサリン・マルフィターノ
 ヨカナーン :ブリン・ターフェル
 ヘロデ :ケネス・リーゲル
 ヘロディアス :アニア・シリア

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 オスカー・ワイルド原作の同戯曲のオペラ化である。
 ストーリーも台詞もほぼ原作に添っているので、劇としての完成度の高さは折り紙付き。
 あとは音楽であるが・・・・・・

 ソルティは不協和音や無調(多調)をモットーとする現代音楽が苦手なので、正直、聴いていて苛立たしいばかり。
 歌唱も最初から最後までフォルテの連続でメリハリがないので、登場人物たちが大声で好き勝手なことをがなり立てる狂人の宴のようにさえ思える。
 「この素晴らしい戯曲が台無し・・・」という残念感を抱かざるを得ない。
 ヴェルディやプッチーニとは言わずとも、せめてワーグナーあたりがオペラ化していてくれたら良かったのに・・・・・と思ってしまうが、戯曲『サロメ』は1891年発表だからワーグナーの死後だったのだ。
 いや別に今からでもいいから、どなたかベルカント的手法あるいはロマン派的手法でオペラ化し直してもらえないものか。 
 サロメがヨカナーンの首を抱いて溢れる思いを語り続けるクライマックスなぞ、まさに『ルチア』や『清教徒』などのベルカントオペラにみる「狂乱の場」そのものではないか。

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ヨカナーンの首に接吻するサロメ(同ライブの一シーン)

 とは言うものの、シュトラウスの『サロメ』を否定するものではない。
 前半部分こそ「狂人の宴」的騒音にうんざりさせられるが、ヘロデ王がサロメに踊りを所望するあたりから面白くなってくる。
 現代音楽通にしてみれば、有名な「七つのヴェールの踊り」につけられた音楽は、古臭くて大衆迎合的で色物チックに聞こえるのかもしれないが、ソルティはやっとここでこの作品を好きになれた。
 このハリウッド映画チックな見せ場と音楽的弛緩があってこそ、そのあとに来るヨカナーン首切りと狂気のラブシーンとが引き立つ。
 緊張と緩和は作劇には欠かせない。
 人間の生理にも。 

 主演のキャサリン・マルフィターノが素晴らしい。
 歌唱も立派だが、演技が抜群。
 エロチックであることが必須とされる七つのヴェールの踊りを、プロダンサーの代役も立てずに自らこなしている。
 どれだけ訓練したことか。
 
 ヘロデ王役のケネス・リーゲルが素晴らしい。
 シェークスピア劇を思わせる彼の古典的演技のリアリティが、狂人のたわ言のようなこの前衛的音楽を、強烈な欲望や恐怖や怒りや怯えの間を揺れ動くヘロデ王の心理表現たらしめるのに、預かって力ある。
 逆説的なようだが、前衛音楽オペラの真価を生みだすのは古典的演劇の風格と確たる演技術なのだ。 
 このライブの成功を根本で支えているのは、ケネス・リーゲルだろう。
 
 現代音楽同様、現代的演出というのもソルティは好きでない。
 が、ここではさほど奇抜な演出がなされてはいない。(たとえば、舞台を現代に置き換えサロメを保守政党の領袖の娘、ヨカナーンを左翼活動家にするといったような・・・)
 全般に簡素で暗いトーンに統一された舞台で、原作のイメージを損なってはいない。
 
 オペラでない『サロメ』の舞台を一度観てみたいのだが、日本ではあまりかからない。
 ウィキによれば、過去には松井須磨子、岸田今日子、森秋子、多部未華子らがサロメを演じている。若き岸田は適役だったろう。
 その美貌といい、スタイルの良さといい、すぐれた演技力といい、官能性といい、スキャンダラスな匂いといい、内に秘めた純粋さといい、個人的には宮沢りえか沢尻エリカがハマると思うのだが、どちらも年齢的にもう遅いかな・・・・。
 

 
おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損