2019年ブータン
109分、ゾンカ語

 ブータン映画初体験。
 しかも、ブータンの人々でさえなかなか行くことのできない標高4800メートルの秘境の村が舞台とあって、興味津々。
 「日本沈没の際に移住するならここ」とソルティが筆頭候補に考えている、“世界で一番幸福な国”の真実を垣間見られたらと思い、レンタルした。

 映画の冒頭で、主人公ウゲンが暮らすブータンの首都ティンプーが映し出される。
 高層住宅が立ち並び、大通りを車が行き交い、宅地開発が進み、夜はネオン瞬く。
 都市化・西洋化していく街の様子に、「ブータンよ、お前もか」といった感慨が募る。

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ブータン

 ティンプーで祖母と生活するウゲンは、音楽とスマホが欠かせない現代青年。
 歌手になるためオーストラリアに行くことを夢見ている。
 いま目の前にいる相手よりスマホの中の情報が大事、春を告げる鳥の声よりヘッドホンの中の音楽が大事。
 ブータンの若者も先進諸国の若者と変わらない。
 「世界一幸福な国」に住みながら、幸福を求めて海外に旅立つという逆説。
 若者というのは、いつの時代もそうしたものなのだろう。
 「今ここ」よりも「いつかどこか」を夢見るものなのだ。 

 ウゲンは数ヶ月の期限で、ルナナという山奥の村に教師として派遣されることになる。
 その務めが終われば、晴れてオーストラリアに旅立てる。
 ティンプーから8日間かけて苦労の末たどりついたルナナは、電気も通ってなければ、ガスも上下水道もない。
 紙は貴重品なので、トイレの始末は葉っぱを使い、焚き付けには渇いたヤクの糞を使う。
 村長に案内された教室には黒板も満足な教材もなく、10名ほどの子供たちは車を見たこともない。
 村人たちは美しくも厳しい自然に囲まれて、ヤクを大切に飼い、代々伝わる民謡を歌いながら、昔ながらの貧しい、しかし謙虚な生活を送っている。
 
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ルナナの宝、ヤク
 
 物語的には予想通りの展開。
 はじめは一刻も早くティンプーに戻りたがったウゲンが、村人の素朴であたたかい心に触れ、子供たちの純真なまなざしと向学心に打たれ、数ヶ月の滞在を受け入れることになる。
 可愛い子供たちと若き教師との交流シーンは、木下惠介『二十四の瞳』やチェン・カイコー『子供たちの王様』を彷彿させる。
 可愛くて利発的な級長をつとめる少女ペム・ザムは、実際にルナナに住む少女(本名同じ)で生まれてから一度も村を出たことがないという。
 スマホもヘッドホンも役に立たない僻地で、ウゲンは何を見つけるのか? 

 ブータンと言えば仏教国として有名だが、ここではむしろ日本古来の神道に似たアニミズムの精神が息づいているのを伺うことができる。
 出てくるブータン人の顔立ちも、日本人にかなり近い。
 日本人とブータン人にはどこか共通するものがあるような気がする。
 ブータンの美しい山岳風景と山の民の伝統的な生活風景が味わえる良作である。




おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損