1968年現代映画社制作
98分、モノクロ

 岡田茉莉子35歳の主演作。
 谷崎潤一郎も讃嘆した比類なき美しさの絶頂期、そのほとんど最後の記録ではなかろうか。
 散り際の染井吉野を思わせる、一種の危機を孕んだ美貌が存分に味わえる。
 この映画のメインテーマの一つが、日本映画界の至宝としての岡田の美を焼き付けることにあるのは間違いなかろう。
 その義務を背負った吉田監督は、実生活上の岡田のパートナーであるから、まさに適任であった。

 遠くから近くから、正面から真横から、俯角から仰角から、逆光からまたは鏡像として、闇をバックにあるいは反射する雪に取り巻かれて、あらゆる手段と技術を用いて映し出される岡田の隙のない美しさには、驚嘆するほかない。(あえて隙を指摘するなら、西洋風な顔立ちとはアンバランスな純日本的な体型であろうか)
 この美貌の主が、本作ではいわゆる“魔性の女”を演じるのだから、のめり込み、翻弄され、血迷い、人生を棒に振る男がわんさか出てくるのも無理ないところである。
 翻弄される二人の男を、木村功と蜷川幸雄が演じている。

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岡田茉莉子と木村功のラブシーン
 
 物語的には男女の三角関係をネタにした陰鬱でドロドロしたメロドラマである。
 ソルティは昔からこういった話は見ても聞いてもうんざりするばかりで、そのうちイライラして来るので、「勝手にやってろ」という感想しかない。途中から退屈した。

 ドロドロした愛憎の醜さや重さを救っているのは、二つ。
 一つは舞台となる北海道の雪原風景。
 白い大地のまばゆいまでの輝きと開放感と冷たさは、人間的感情を超越している。
 今一つは池野成による音楽。
 『サザエさん』の劇中音楽を短調にしたような、どことなく滑稽感あるBGMが、死者の出現をもって終わるドラマの悲壮感を緩和している。
 それをチグハグと感じる向きもいるかもしれない。
 
 吉田監督の絵作りの手腕は言わんかたない。
 どのショットも見事な構図と光線具合で、「さすが松竹ヌーヴェルヴァーグ」と唸らせられた。


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おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損