2009年角川書店
2012年文庫化
ジャニーズの岡田准一が主演した時代劇映画ということは知っていたが、どういう話なのかまったく知らずに読み始めた。
江戸時代の理系男子の物語とは意表を突かれた。
囲碁や数学や天文学や暦づくりに人生をかけた男たちが活躍する、史実をもとにしたフィクション、あるいは想像と創造の羽を広げたノンフィクションである。
江戸の町に数学塾があったとか、神社の絵馬を使った見知らぬ相手との数学問題の応酬があったとか、隊を組んで地方を旅して各地の緯度を計測する公務があったとか、知らなかったことばかりで新鮮な驚きがあった。
江戸時代の理系男子と言えば、エレキテルを発明した平賀源内、和算の関孝和、日本地図を作った伊能忠敬あたりしか思い浮かばず、本作の主役である渋川春海の名は記憶になかった。
名前の字面から浮世絵画家かと思ってしまうが、実は幕府おかかえの囲碁棋士にして、天文学者にして、日本で初めての暦(貞享暦)を作った男なのである。
本作は、渋川春海が貞享暦を作成し、それを幕府(江戸)と皇室(京都)の勅許を得て日本の公式な暦とするまでの奮闘を描いている。
貞享暦が1685年に採用されるまでは、日本の暦は中国の暦を輸入していたという。
当然、中国の経緯度と日本のそれとは異なるので、微妙なズレがある。
平安時代に輸入された宣明暦は800年以上使い続けられて、江戸時代には実際の天体の動きと2日のズレが生じていたという。
月食や日食を外しまくっていたのだ。
渋川春海は日本の経緯度に即した、新しく正確な暦の作成を目論んだのである。
本作には、暦づくり及び改暦作業の大変さが細やかに描かれている。
地上のある一点から観測したときの天体(太陽や月や地球など)の動きの規則性をつかむことが必要になってくることは推測つくが、コンピュータも性能の良い望遠鏡もない時代に、原始的な測量器具(四分儀)によって測量し、紙と筆と算盤だけを使って正確な暦をつくる作業は、まさに天才的な理系の頭脳と堅忍不抜な精神をもってしかできないところである。
感心至極。
作者の冲方丁(うぶかたとう)は王朝時代の後宮ドラマ『はなとゆめ』で知った。
構成力とキャラクター造型に優れたうまい書き手である。
90%文系のソルティにしてみれば、理系の天才たちはまさに殿上人。
同じ人間でどうしてこんなに違うのかと思ってしまう。
せいぜい、認知症予防のため、囲碁を学ぶか、中学高校の数学問題集でもやってみようかと思う今日この頃である。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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