2021年河出書房新社

 江戸時代後期、千葉県布川に赤松宗旦という医者がいた。
 晩年に、地元布川を中心とする利根川流域の歴史・風俗・動植物を紹介する図説入りの本を書いた。
 それが『利根川図志』(1858年刊行)である。

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 本書は、利根川流域を転々と移り住んできたという筒井が、宗旦の『利根川図志』に倣って、自らの興味の赴くままに、岸辺の町や遺跡や風物を訪ねて紹介したものである。
 民俗紀行エッセイといった感じであろうか。

 坂東太郎もとい利根川は、新潟県と群馬県の境にある大水上山(1,831m)に水源を発し、群馬県を縦断し、埼玉県の上辺をなぞり、東北本線栗橋駅の北で渡良瀬川と合流したあと、茨城県と千葉県の県境を作りつつ、銚子(犬吠埼)で太平洋へと注ぐ。
 全長は322km、信濃川に次いで日本で2番目に長い。
 
 本書で対象とされるのは、渡良瀬川との合流地点から下流部分について。
 主たる町の名を上げれば、古河・野田・坂東・我孫子・取手・布川・印西・成田・香取・潮来・神栖・銚子。
 我孫子から銚子までは、JR成田線沿線となる。

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 こういう本は、実際に現地を足で巡りながら読むのが一番面白いのであるが、さすがにそれはたいへんなので、昭文社『スーパーマップル 関東道路地図』を手元に置きながら、取り上げられる町の地図上の位置を利根川や鉄道との関係で確かめつつ、読んでいった。
 おかげで、ちょっとした旅行気分が味わえた。
 JR一筆書きツアーで何度か成田線には乗っていて沿線風景も目にしているが、この路線では下車したことがないので、非常に興味深かった。
 
 題材は幅広い。
 赤松宗旦や柳田邦男の住んだ家や家族の話、非定住民たちのテント集落があった森、変わった土地の名前の由来、利根川の流れの変遷や度重なる水害、“風俗壊乱(乱交)”の祭りの伝承、平将門伝説、宝珠花にあった遊郭、昭和40年代初期まであった霞ヶ浦の帆曳き網漁、工業団地に化けた砂丘、銚子半島と紀州和歌山とのつながり・・・等々。 
 まさに「町に歴史あり」「川に歴史あり」といった話のオンパレードで、民俗学の面白さを堪能した。

 読んだら、どうしても訪ねてみたくなった場所があった。
 花粉シーズンがおさまったら出かけようっと。





おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損