2000年松竹
123分

 本作は、1982年(昭和57年)8月に発生し1997年(平成9年)7月の犯人逮捕によって決着を見た、松山ホステス殺害事件の犯人・福田和子の15年にわたる逃走劇を下敷きに作られている。
 が、福田和子という人物をそのまま描いたノンフィクションというわけではなく、まったく別の創作物としてとらえるべきだろう。
 くだんの事件は、本作を生み出す際のアイデアなりヒントなりになったのは間違いないし、映画を売り出す際にはキャッチ(話題性)として寄与したであろうが、本作の主人公である吉村正子(藤山直美)と福田和子をダブらせるのは、おそらく間違っている。

福田和子記事
1997年7月29日愛媛新聞記事
福田和子の生涯はすさまじくも哀しい

 『どついたるねん』や『王手』など硬派な作風で知られる阪本監督が本作で描きたかったのは、犯人逮捕までの経緯を週刊誌的な好奇な目でスリリングに追った実録犯罪ドラマではなく、引きこもりだった中年女性が“犯行をきっかけに”やっと外の世界と接点を持ち始め、人づき合いの喜びと哀しみを知り、失われていた青春を取り戻そうとする文字通り“死に物狂い”の奮闘劇なのである。
 30歳を過ぎてから自転車や水泳に初挑戦するヒロインの姿に、観る者が感動するのはそれゆえである。
 その意味で本作は、『どついたるねん』や『王手』同様、人生の荒波を不器用に生きる市井の庶民の物語には違いない。
 浪花版『嫌われ松子の一生』といったところであろうか。

 主役の藤山直美の熱演というか猛演、脇を固める佐藤浩市、豊川悦司、渡辺美佐子、大楠道代(素晴らしい!)、國村隼、岸部一徳らの好演、それぞれの役者の個性や巧さを存分に味わえる。
 どんな端役であっても生かすことができるってのは、すぐれた監督の要件の一つであろう。




おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損