収録作品
『法螺吹き友の会』(1925年初出)
『キツネを撃った男』(1921年初出)
『白柱荘の殺人』(1925年初出)
『ミダスの仮面』(1936年執筆)

「ブラウン神父シリーズ」で有名なG・K・チェスタトンによる表題の長編小説、および3編の短編ミステリーからなる。
短編の一つ『ミダスの仮面』はブラウン神父物のミステリーで、チェスタトンの秘書だった女性の屋根裏部屋から発見され、著者の没後半世紀以上たった1991年に発表されたという。(初訳は1998年)
それ以外の作品はこれが本邦初訳である。
よくもまあ本書を刊行してくれたなあと出版社の心意気に感心する。
論創社という名はあまり聞かないが、長谷部日出雄著『新版 天才監督 木下惠介』(2013年)を出してくれた有り難い版元であった。
同社のホームページを見ると、大手出版社が手をつけないようなニッチでユニークな書籍が並んでいる。
入手困難な名著の復刻、現代戯曲、戦前の日本の推理小説、ディクスン・カーやクロフツなど黄金時代の未訳の海外ミステリーなど、なかなかに食指をそそるラインナップ。
出版不況と言われるこのご時世に、コンスタントに新刊を出し続ける体力の秘密はどこにあるのだろう?
さらに本書について言えば、「ブラウン神父物の新たに発見された短編の単行本初収録」というキャッチは確かにあるけれど、表題作である『法螺吹き友の会』が邦訳に(というか英語以外の言語の訳出に)向いているとは言い難いうえ、内容的にも決して読みやすいものではない。
『吾輩は猫である』のような高踏ユーモア小説というべきで、ミステリーを期待して手に取ったら肩透かしを食らうのでご注意。
原題 Tales of the Long Bow は、long bow という語が brow the long bow「ほらを吹く」という慣用句として使われることから『ほら吹きの話』という意味合いで間違いないのであるが、これにはオチがあって、話の最後に小作農による権力への抵抗(一揆のような)というエピソードがあり、ここで農民たちによって使われる武器が long bow つまり「長い弓」なのである。
つまり、字義通り「長い弓の話」となる。
このように、この小説の一番の特徴は、英国人なら誰もが知っている英語の慣用表現が、字義通りの意味に使われるところに意外性や面白さを引き出す点にある。
ほかにも、white elephant「不用品、厄介なもの」、pigs fly「現実にありえないこと」、set the Thames on fire「世間をあっと言わせる」などの慣用句が出てくる。
日本語に置き換えて例を挙げるなら、「あいつはいつも味噌も糞も一緒にする」と言ったら、本当に味噌汁に糞を入れて出してきた、ギャフン――といった感じか。
それ以外にも、英語ならではの洒落や地口、英文学からの引用などが縦横無尽に繰り出される。
日本語に置き換えて例を挙げるなら、「あいつはいつも味噌も糞も一緒にする」と言ったら、本当に味噌汁に糞を入れて出してきた、ギャフン――といった感じか。
それ以外にも、英語ならではの洒落や地口、英文学からの引用などが縦横無尽に繰り出される。
英語を母国語とする教養人ならきっと抜群に面白いだろうし、作者の機知やユーモアや造詣の深さに感心するところだろう。
だが、これを日本語で読むとなると・・・・・。
チェスタトンの難渋で回りくどい文体もまた、ブラウン神父物で慣れているソルティでさえ、時に苛ついた。
ミステリーならまだしも政治や文化を語りだすと、とても高尚過ぎて(あるいはチェスタトンの保守思想に閉口して)興ざめしてしまう。
ミステリーならまだしも政治や文化を語りだすと、とても高尚過ぎて(あるいはチェスタトンの保守思想に閉口して)興ざめしてしまう。
創元推理文庫や早川書房が手を出さなかったのも理解できる。
よくまあ本作を出版したものよ。
一方、3つの短編は面白かった。
チェスタトン・ミステリーの特徴であるどんでん返しがどれも効いていて、「さすが!」と思った。
中でも『白柱荘の殺人』がよく出来ている。
読み終えた後に、もう一度最初から読み返したくなるのは必至。
一見難渋で回りくどい文体が語り口の巧さに転じるところに、すなわち文体そのものがトリックの重要な構成要素となっているところに、チェスタトン・ミステリーの秘密があるのは間違いない。
おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損