1963年松竹
99分
渥美清と言えば「寅さん」であるが、ソルティは山田洋次監督『男はつらいよ』シリーズをこれまでに3本しか見ていない。
20代の頃に旧作2本と新作1本を観て、どうにも面白さを感じられず、「これは自分向きじゃない」と早々に退却してしまった。
なので、渥美清という役者の魅力がいま一つ分からないでいた。
彼をテレビで観ることはほとんどなかったし、映画も寅さん以外で記憶に残っているのは同じ松竹の『八つ墓村』(1977)の金田一耕助くらいである。
公開当時、渥美の金田一耕助について原作者の横溝正史が、「自分のイメージする耕助にもっとも近い」とコメントしたのを覚えているが、個人的には石坂浩二や古谷一行のイメージがあまりにも強く、ふっくらして動きの鈍そうな渥美の耕助は、演技の巧さは別として、違和感があった。
それに、あの作品の主役は小川真由美という気がする。
(そう言えば、今年の正月に観たシネマコンサート『砂の器』に、渥美は田舎の映画館の支配人役で出ていた。近くの席から「あっ、寅さん!」と声が上がった)
それに、あの作品の主役は小川真由美という気がする。
(そう言えば、今年の正月に観たシネマコンサート『砂の器』に、渥美は田舎の映画館の支配人役で出ていた。近くの席から「あっ、寅さん!」と声が上がった)
本作でやっと喜劇役者としての渥美清の魅力を知った。
ここで渥美が演じているのは、三度の飯がちゃんと食えて風呂にも入れる軍隊を天国と思う「情が厚くて純朴で寂しがり屋の風来坊」山田正助である。
「なんだ、寅さんそのものではないか」と思うが、それもそのはず、ウィキによれば「この作品がフジテレビの関係者の評判を得て『男はつらいよ』の構想が練られた」とのこと。
山田正助は寅さんの原型なのだろう。
たしかにチャーミングである。
「憎み切れないロクデナシ」を地で行く、放っておけないキャラ。
素の渥美とどこまでかぶるか知るところでないが、ここでの渥美の演技は自然体で、元来持っている人柄の良さが、やんちゃでがらっぱちなキャラクターと見事に結合して、愛おしさ満開である。
「憎み切れないロクデナシ」を地で行く、放っておけないキャラ。
素の渥美とどこまでかぶるか知るところでないが、ここでの渥美の演技は自然体で、元来持っている人柄の良さが、やんちゃでがらっぱちなキャラクターと見事に結合して、愛おしさ満開である。
ソルティが観た『寅さん』は、すでに国民的人気のもと松竹のドル箱として正月とお盆の年2回興行が定着してからの作品で、ある意味、マンネリ化が始まっていたのだと思う。
最初の頃のフレッシュな寅さんを観たら印象が変わるかもしれない。
昭和初期の軍隊生活を主軸としたコメディ。
共演の長門裕之とのコンビネーションも良い。
どこかで見たことのある懐かしい顔が出ているなあと思ったら、若き日の桂小金治。
ソルティは落語家としての小金治は知らず、TV『アフタヌーンショー』の名司会ぶりと『それは秘密です!!』の「ご体面コーナー」における手放しの泣きっぷりが記憶に残っている。今でも、織田信成を見るたびに桂小金治を思い出す(泣)
名コメディエンヌ藤山直美の父親・藤山寛美や「裸の大将」画家の山下清の出演も見どころ。
考えてみると、『男はつらいよ』シリーズは第1作が公開された69年から遺作となった95年まで、昭和40年代から平成6年まで27年間の日本の姿を連続撮影しているわけで、記録フィルムとしての価値も高いのではないかと思う。
とりわけ、寅さんが旅好きなおかげで日本のあちこちの地域の風土・文化が撮られていよう。
失われた日本、変わっていった日本を、マドンナをつとめた女優の若かりし姿と共に確かめるのも一興なんじゃないか、と最近思っている。
失われた日本、変わっていった日本を、マドンナをつとめた女優の若かりし姿と共に確かめるのも一興なんじゃないか、と最近思っている。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損