5月1日(日)曇りのち雨 郡山~会津若松~大宮

 郡山駅8:29発の磐越西線に乗る。
 磐梯山を車窓の左に右に前に後ろに望みながら、会津若松到着。
 駅前のバスセンターで軽食を取りながら、坂下(ばんげ)行きのバスを待つ。

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会津磐梯山は宝ぁのや~ま~よ

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会津若松駅

 勝常寺は会津若松市の北に位置する湯川村(福島で一番小さい村)にある。
 鶴ヶ城、さざえ堂、飯森山(白虎隊十九士の墓)、七日町通り、東山温泉・・・会津若松観光の定番スポットには入っていない。
 これは勝常寺の存在とその素晴らしさがよく知られていないからであろう。
 ソルティも過去に2度会津若松に来ているが、知らなかった。

 だが、自信を持って言える。
 会津若松に来て勝常寺に行かないのは、京都に来て無鄰菴に行かないようなもの、金沢に来て鈴木大拙館に行かないようなもの、長野に来て戸隠神社に行かないようなものである。
 つまり、静けさと清らかさとゆったりした時の流れを愛する、“通”な大人向けの観想空間である。
 いまの住職があまり観光やら人寄せやらに興味を持っていないのも一因である(と村の人は言っていた)らしいが、本来ならもっと注目を浴びてもいいお寺である。
 なんといっても所蔵の仏像たちがあまりに見事すぎる!

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「道の駅あいづ」でバスを下りる
ここから歩いて15分

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広大な田んぼの間を縫ってゆく
奥に見える森がお寺のあるところ

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参道
地元の人が協力して黒い板塀に揃えたとのこと

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勝常寺

 勝常寺は大同2年(807)、法相宗の徳一上人によって開かれた。
 徳一は最澄との間で繰り広げた三一論争で有名であるが、二十歳にして塵埃まみれの都から草深い会津に移り住み、恵日寺や勝常寺を建立し、当地で仏教を広めた道の人である。その生涯は謎に包まれている部分が多い。(おかざき真理の『阿吽』ではやたらと背の高い隻眼の坊主というキャラである)
 ともあれ、空海、最澄の両天才と同じレベルで論争できたのだから、その学識や思考力や弁論術の高さが比類ないものだったのは間違いなかろう。

 往時の勝常寺は七堂伽藍が奈良の古寺のように整然とたちならび、大勢の僧侶が学問していたという。法相宗の中心教義たる唯識論を学んでいたのだろう。
 鎌倉時代に真言宗に鞍替えして現在に至っている。

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薬師堂(元講堂)
応永5年(1398)再建
国指定重要文化財

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収蔵庫
国宝の木造薬師如来像と日光・月光菩薩像のほか
平安初期の仏像が9体もある

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湯川村の案内パンフレットより
実物の荘厳さ・迫力・気品ある美しさには
思わず膝をつき手を合わせてしまった

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徳一上人の像もあった!
なかなかふてぶてしいご尊顔

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境内は緑豊かで実に気持ちいい
昭和61年に皇嗣時代の令和天皇が訪れている

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本堂
平成22年6月に新築された

 心ゆくまで仏像と対話し所蔵庫を出たら、雨が降ってきた。
 雨宿りできるところはないかと思ったら、お寺の前に休憩所兼みやげ物屋らしき小屋がある。「角屋」とある。
 入ってみたら、天井や壁が竹細工で内装された洒落た造り。
 地元でとれた米や酒、工芸品などが置かれていた。
 店番の人によると、農機具の収納小屋だったものを改装したとのことで、なんとこの4月末にオープンしたばかり。
 村起こしのためいろいろ工夫して頑張っている様子が窺えた。

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角屋

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地元の人と交流できるのも魅力である

 ここで「湯川たから館」のチラシを見つけた。
 常設展として「湯川が生んだ撮影監督 高羽哲夫の軌跡」を展示しているという。
 高羽哲夫の名前は知らなかったが、彼の撮影した映画は有名である。
 なんと、山田洋次監督とのコンビで渥美清主演『男はつらいよ』シリーズの第1作から第48作までを撮っているほか、高倉健主演『幸福の黄色いハンカチ』や倍賞千恵子主演『霧の旗』などのカメラを担当している。
 湯川村出身だったのだ。
 『男はつらいよ』シリーズを順繰りに観ていこうかな~、と思っていた矢先のこの出会い。これを宿縁と呼ばずになんと呼ぼう(偶然?)
 そぼ降る雨の中、お寺の裏手にある「たから館」に足を向けた。

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高羽(たかう)という姓は湯川村でも珍しいらしい

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湯川たから館

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第1作から最終作まで、時代を映すポスターの列は壮観

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ゴッホを愛読していたというのが興味深い
ゴッホの光と影に学んだのだろうか?

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撮影現場の後藤久美子と高羽哲夫
ゴクミが国民的美少女と言われたころ

 寅さんファン、日本映画ファンなら、一度は訪れる価値がある。
 勝常寺、たから館、そして「湯川村が一枚の田んぼ」と言われる昔ながらの田園風景も都会人には新鮮である。
 新しい会津若松の観光スポットになる日も遠くあるまい。
 
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湯川村はコシヒカリの名産地
(湯川村案内パンフの写真より)

 郡山に戻り、東北本線に乗る。
 帰りの窓外はずっと雨。
 角屋で買った凍み餅をかじりながら、『チボー家の人々』を開いた。

凍み餅
もち米・うるち米・紫黒米をつき、自然乾燥して味付けたもの


 振り返ってみれば、お墓とお寺をめぐった旅であった。
 仏に出会う旅。これがソルティの黄金週間か。



 終わり