1984年松竹
125分
田中裕子が一流女優の仲間入りした名作『天城越え』の三村晴彦監督の作品というので、気になって借りてみた。
原作は『天城越え』と同じ清張ミステリーである。
結論から言うと、出来は良くない。
悪徳実業家に父親を殺された青年の復讐劇という、どちらかと言えばテレビドラマ向けの陳腐な題材は措いておくとしても、脚本がすっきりせず焦点が合っていない。
誰が主役なんだかよくわからないのである。
本来なら復讐を胸に誓う青年・譲二(真田広之)が主役となるべきで、その悲惨な幼少期の記憶であるとか、憎き相手・下田(三國連太郎)への憤りであるとか、復讐までの一つ一つの段取りなどが描かれていくところであろう。
その過程で愛する女ができたり、勇みがちの不用意な行動によって危うく相手方に正体がバレそうになったり、同じく下田への復讐心を持つ男・井川(平幹二郎)と知り合って手を組んだり・・・といったエピソードが盛り込まれる。
つまり、譲二視点でストーリーを進めていけば一つの復讐譚としてすっきりする。
ところが、これが譲二の復讐譚であることがはっきりするのは物語の後半になってからで、それまでは視点が定まっていない。
いったい何の話なのか、誰が主役なのか、よくわからないまま、昭和の銀座界隈の欲と腐敗に満ちた世界が描き出されていく。
結果として、欲と腐敗の代名詞である実業家下田を演じる三國連太郎がやたら目立っている。
ただひたすら金と女と権威を追い求める、いかにも“昭和”といった感じのいやらしい中年ハゲ親爺を、三國は抜群のリアリティをもって演じている。
そのなりきりぶりが凄い。
そのなりきりぶりが凄い。
三國がもともと相当な二枚目俳優として登場したことを思えば、その役者魂には称賛のほかない。佐藤浩市にはこの役はできないのではあるまいか。
三國連太郎の圧倒的な存在感の前では、若くハンサムな真田広之も、若く凛とした美しさのある名取裕子も、王将の前の歩のようなものである。さしずめ、平幹二郎と渡瀬恒彦が金、吉行和子と石橋蓮司が銀ってところか。
通じ合った譲二と井川が、下田をやっつける密談を白昼の往来で交わしたり、第三者のいるところで復讐に用いる毒物の話を持ち出したり、脚本の粗さは首を捻りたくなるほど。
演出もカメラワークも凡庸である。
『天城越え』を越えるのは難しかった。
P.S. ラストの復讐シーンの舞台設定は、下田が主宰する「無修正ポルノフィルムの極秘上映会」
昭和だあ~
P.S. ラストの復讐シーンの舞台設定は、下田が主宰する「無修正ポルノフィルムの極秘上映会」
昭和だあ~
