1999年アメリカ
127分

 工藤夕貴(1973- )は好きなアイドルの一人であった。
 ハウス食品のラーメンCM 「お湯をかける少女」で一躍人気者になり、『野性時代』で歌手デビューを果たし、石井聰互監督『逆噴射家族』、相米慎二監督『台風クラブ』の鮮烈な演技で女優としての可能性を見せつけ、ジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』(1989)で国際女優として歩みだした。
 向かうところ敵なしといった破竹の勢いであった。
 その“野性時代”のひとつの頂点が本作であろう。
 工藤夕貴28歳。

 原作はデイヴィッド・グターソンのミステリー小説 Snow Falling on Cedars(邦訳『殺人容疑』講談社刊)。
 舞台はアメリカ西海岸の最北端に位置するワシントン州のサン・ピエトロ島。
 太平洋戦争勃発後の日本人移民に対する偏見や迫害がもとで起きた冤罪事件を主軸に、地元の青年(イーサン・ホーク)と日本の娘(工藤夕貴)の結ばれなかった恋を描く。

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イーサン・ホークと工藤夕貴
 
 錚々たる共演陣である。
 『ライトスタッフ』『フール・フォア・ラブ』のサム・シェパード、巨匠ベルイマン作品の常連だったマックス・フォン・シドー(『第七の封印』の騎士アントニウスほか)、名脇役としてならしたリチャード・ジェンキンス、ジェームズ・クロムウェル。
 ぽっと出の新人なら緊張で固まっても仕方ないようなベテランの演技派オヤジたちの間にあって、しかも母国語でない英語だけのセリフというハンディの中で、まったく引けを取らない、むしろ周囲を食ってしまうほどの鮮烈な輝きを見せる工藤夕貴の傍若無人ぶりが印象的である。
 デビュー当時、七光りと言われるのを嫌い、往年の人気歌手・井沢八郎の娘であることを隠していたエピソードは有名だが、親譲りの才能はむろんのこと、強い意志と努力の人なのだろう。
 いまや井沢八郎こそ、工藤夕貴の逆七光り。(この関係は藤圭子と宇多田ヒカルに似ている?)

 スコット・ヒックス監督は、実在のピアニスト、デイヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いた映画『シャイン』で一躍有名になった。
 ソルティは未見だが、本作を観ると西洋絵画のあれこれを想起させる絵作りの巧さが特徴的である。煽らない丁寧な語りも好ましい。
 思いがけない掘り出し物といった体の傑作であった。

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おすすめ度 :★★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損