107分
この映画のもとになったのは、2017年に大阪・毎日放送(MBS)で放送されたドキュメンタリー番組『教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか~』。
2017年にギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞するなど大きな反響を呼び、2019年に書籍化、その後、追加取材と再構成を行い映画版が誕生した。
監督の斉加尚代は、MBSで20年以上にわたって教育現場を取材してきたそうだ。
漫画家の小林よしのりらによる「新しい歴史教科書をつくる会」の結成が1996年、国旗国歌法の制定が1999年、扶桑社から市販本『新しい歴史教科書』『新しい公民教科書』が発刊されベストセラーとなったのが2001年。
ソルティも扶桑社の教科書を買って読み、「現場はどう判断するのだろう?」と推移を見守った。
ソルティも扶桑社の教科書を買って読み、「現場はどう判断するのだろう?」と推移を見守った。
蓋を開けてみたら、採択率が思ったほどでないのでホっとした。
教育現場の良識も捨てたもんじゃないと思った。
その後、つくる会が仲間割れしたというニュースもあって、教科書問題について関心が遠のいていた。
ソルティに子供や孫がいないことも一つの理由であろう。
その間に、安倍晋三政権が生まれ、教育基本法の改定(2006年)があり、「美しい国」キャンペーンが日本中を覆った。
2022年現在、教科書問題は、教育現場は、どうなっているのだろう?
――という懸念から久しぶりに若者人気ナンバーワンの吉祥寺に出向いた。
パルコ地下にあるUPLINK吉祥寺という映画館である。
硬いテーマだし、平日の午後でもあるし、場内はガラ空きかと思ったのだが、老若男女で6割くらい埋まった。
ここ十数年の間に教育現場はとんでもないことになっていた。
政治が教育に介入し、検定に合格するか否かが死活問題の各教科書会社は文科省の顔色窺いと忖度に追われ、教育現場からは教員たちの主体性が奪われ、結果として、生徒たちが国家の望む臣民たるべく育てられる方向に進んでいる。美しい国に奉仕する臣民へと。
インタビューに応じる保守の政治家や学者が好んで用いる用語が「自虐史観」。
戦後の歴史教育が戦時中の日本国あるいは日本軍の加害者性ばかり強調するから、自らの国に誇りを持てない、自らの国を守ろうとしない民を生んだのだ、という理屈。
戦後数十年の自虐史観を跳ね返すためには、専門家によって確かめられている史実を無視したり、歪曲したり、忘却してもかまわない、という確信犯的詐術が繰り広げられている。
「そういうことをする国だから誇りが持てないのだ」ということが彼らにはなぜか通じない。
右と左で、プライド(誇り)の定義が180度違っているかのよう。
それこそ各々が受けてきたしつけや教育の影響か?
ロシアによるウクライナ侵攻が今後の国政や教育行政に与える影響には測り知れないものがある。
教育現場の“戦前化”はいよいよ進むのだろうか?
いつの日か墨で塗りつぶした文字が復活する日が来るのだろうか?
日本は核と軍隊と徴兵制をもつ“一人前の国家”へと脱皮するのだろうか?
自分自身や友人が、あるいは自分の子供や孫が、兵隊にとられ戦場に送られる可能性あるを知りながら、それを推進する政党に進んで投票する行為こそ、自虐の最たるものではなかろうか。
こんな映画を吉祥寺で観る日が来るとは30年前には毛ほども思わなかった。
日本は核と軍隊と徴兵制をもつ“一人前の国家”へと脱皮するのだろうか?
自分自身や友人が、あるいは自分の子供や孫が、兵隊にとられ戦場に送られる可能性あるを知りながら、それを推進する政党に進んで投票する行為こそ、自虐の最たるものではなかろうか。
こんな映画を吉祥寺で観る日が来るとは30年前には毛ほども思わなかった。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損