2015年
128分

 オカルトファンタジーとでもいった作品。
 生者と死者との不思議な交流というテーマから、ヴィム・ヴェンダースの『ベルリン・天使の詩』やガス・ヴァン・サントの『追憶の森』を想起した。
 原作は湯本香樹実の同名小説。

 薮内瑞希(深津絵里)のもとにある日、3年前に行方不明となって死んだはずの夫・優介(浅野忠信)が戻ってきた。「ぼくは死んでるよ」と言う優介の言葉を瑞希はそのまま受け入れる。二人は優介のゆかりの場所を訪ねる旅に出る。さまざまな生者と死者の再会と別れの場に立ち会いながら、瑞希は優介の知られざる一面に気づく。

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浅野忠信と深津絵里

 第68回カンヌ国際映画祭「ある視点部門・監督賞」を獲っていることが示すように、ヨーロッパ受けしそうな大人の作品である。
 「日本人もやっとこういった映画を撮れるようになったのだなあ」としみじみ思ったが、なに、溝口健二、小津安二郎、木下恵介・・・・本邦こそ大人の鑑賞に値し世界に通じる映画をあまた輩出してきたのである。
 50~60年代の黄金期から70~90年代の停滞期を経て、いままた日本映画は興行的な部分は別として充実期に入っているのかもしれない。
 1955年生まれの黒沢清は、1956年生まれの周防正行、1962年生まれの是枝裕和と並んで、まさにその牽引者の一人と言っていいのだろう。(青山真治監督が今年3月に亡くなったのは残念なことであった。冥福を祈る)

 主演の浅野忠信が良い。
 ホントいい役者になった。イケメンというのではないが、顔がいい。
 生者と死者の中間的存在という、リアリティがあり過ぎても無さ過ぎてもストーリーが破綻してしまう難しい役柄を、人好きする顔とオレンジ色のコートにより絶妙に演じている。
 (ああ、このオレンジのコートゆえに『ベルリン・天使の詩』を、つまりピーター・フォークを思い出したのだ) 
 出番こそ少ないが蒼井優、小松政夫も良い。

 ヨーロッパ風の一因は、マーラーっぽいBGMのせいもある。
 いささか大仰な感もするのだが、国際賞狙いならこれもありか・・・・。  
 音楽は大友良英、江藤直子。
 
 黒沢清、周防正行、青山真治、『偶像と想像』や『ドライブ・マイ・カー』で世界の名だたる映画賞を総ナメし快進撃を続けている濱口竜介・・・・彼らに共通するのはフランス文学者で映画評論家の蓮實重彦の教え子であること。
 映画における評論家の意義というのを感じさせる。



 
おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損