2012年
114分

 原作は今年2月に54歳で亡くなった西村賢太の同名小説。
 芥川賞を受賞している。
 著者の貧しくみじめでブザマな青春時代を描いた私小説である。

 西村をモデルとする主人公の北町貫多を、森山未來が演じている。
 森山未來の芝居の巧さは李相日監督『怒り』(2016年)などで知っていたが、やっぱり天才的憑依力。
 素の森山とはずいぶんかけ離れているであろう破滅型キャラに違和感なく扮している。
 ただ一つの違和感は、森山の体の線の美しさ。
 日雇いの力仕事をしている男たちにはちょっとないような軽みと品がある。
 幼い頃からダンスやバレエをしてきた体は容易に隠せるものではない。

 元AKBの前田敦子にも感心した。
 アイドルの演技ではない。
 石井裕也監督『生きちゃった』(2020年)の大島優子とは、女優になってもライバル対決が続いているようだ。
 
 昭和晩期(1980年代)の下町の空気が実によく醸し出されている。
 山下監督は『マイ・バック・ページ』で70年代初頭の反体制運動盛んな東京の風景をリアリティ豊かに描き出していたが、時代を撮るのが上手な人である。
 寛多らの働く港湾労働の風景を見ていたら、あの頃よく買っていた『週刊アルバイトニュース』の表紙や冒頭数ページに掲載されている「高収入短期バイト」の求人広告が脳裏に浮かんできた。
 ソルティは三日と続かなかった。
 3Kの最たるものだった。

 原作は読んでいないのでテーマ的な違いは分からないが、本作は『リンダ・リンダ・リンダ』や『マイ・バック・ページ』同様の青春映画と言っていいだろう。
 ブザマでもみじめでも青春は美しい。


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おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損