日時 2022年6月5日(日)15:00~17:00
会場 ルネこだいら大ホール(東京都小平市)
指揮 佐々木 克仁
演出 山田 大輔
合唱 オペラアーツ合唱団
エレクトーン 西岡 奈津子、小倉 里恵
打楽器 大野 美音、金丸 寛
キャスト
カルメン: 善田 美紀(メゾソプラノ)
ドン・ホセ: 片寄 純也(テノール)
エスカミーリョ: 中西 勝之(バリトン)
ミカエラ: 山下 尚子(ソプラノ)
別のオケを聴くつもりで西武新宿線・小平駅に降りたのだが、なんと日にちを間違えていた。
ルネこだいらの前には『カルメン』のポスター。
1時間待ちで『カルメン』が始まる。
せっかくだから、これを観ていこう!
主催のオペラアーツ振興財団は、「オペラの裾野を全国に広めるため、特に青少年の情操を育むため」に30年前から活動を続けている団体。
その主旨に則って、オペラ初心者が興味を持って気楽に鑑賞できるよう、また学校の体育館のような場所でも無理なく上演できるよう、いくつかの工夫を凝らしている。
- 有名なアリアや合唱を中心に、筋をシンプルにし、全体を2時間程度に収める
- フルオーケストラでなく、エレクトーン2名と打楽器2名の演奏
- 原語でなく日本語上演
なにより、題材として『カルメン』を選んでいるのが一番のポイントであろう。
小中学生でもわかりやすい筋書きで、恋愛トラブルの果ての殺人という三面記事に載るようなスキャンダラスな話である。
音楽的にも、前奏や闘牛士の歌など誰でも一度は聴いたことがあるような曲がつまっているので、入りやすい。
高校生以下100名を招待しているとのこと。
素晴らしい試みだ。
客席を見渡すと、確かに小中学生や高校生らしき姿がチラホラ見える。
が、大半はおばちゃんたち。
オーケストラピット
エレクトーンと打楽器だけのオペラ演奏は初めてだったが、これがびっくり。
ちゃんとオケ演奏として成り立っている。
エレクトーンの作りだす音色の多彩さと弾き手の技術の高さに感心した。
2時間ぶっ続けで弾くのは大変な気力と体力の要ることだろう。
一人でいくつもの打楽器を担当するパーカッションも大健闘であった。
歌手ではドン・ホセを演じた片寄純也が声量たっぷりで滑舌よろしく、精彩を放っていた。
ミカエラの山下尚子の楚々とした雰囲気と美しいソプラノにも癒された。
合唱隊も切れ味鋭くて良かった。
演出はオーソドックスだが、わかりやすさに焦点を置くならこれが正解。
本来はかなりエロティックなこのオペラ(バルツァ×カレーラスの『カルメン』を見よ!)から、エロがずいぶん抜けていたが、小中学生もいるから仕方ないところである。
そのあたりの案配が難しかったろうなあ。
気になったのは、やはり日本語上演の良し悪し。
『カルメン』の台本はフランス語。
同じラテン語から派生したイタリア語、スペイン語、あるいはフランス語に近い英語あたりなら、訳語上演してもそれほど奇異な感じは受けないと思う(聴いたことないが)。
日本語はフランス語とは発音体系も抑揚も文法も異なるので、フランス語に合わせて作られた音楽に日本語を当てはめるのは至難の業。
畢竟、日本語の抑揚や間を無視したセリフや節回しになりがちで、不自然に聞こえてしまうし、歌詞が聞き取りづらくなってしまうのだ。
オペラの魅力の大きな部分は「言葉と音楽の幸福な結婚」にあると思うので、そこを犠牲にしてしまうのは個人的には残念。(これは歌舞伎や能をフランス語や英語で上演する場合をイメージすると頷けるであろう)
ただ、ソルティは原語で聴くのに慣れているゆえに、あるいは洋画で字幕を読むのに慣れているゆえにそう感じるのであって、入り口としては日本語上演も当然ありだろう。
幕間休憩で「意味、全然わかんない」とぼやいていた近くの席の中学生たちは、ホセがカルメンを刺すラストシーンでは息をつめて食い入るように舞台を観ていた。
彼らが、「人を好きになるって恐いんだな~」と怖気づきませんように。
いつの日かオペラの魅力にはまってくれますように。
出演者、スタッフ、関係者の骨折りにブラーヴォ!
出演者、スタッフ、関係者の骨折りにブラーヴォ!