1964~1971年『月刊漫画ガロ』連載
1988~1989年小学館叢書6~10巻

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 最近『ゴールデンカムイ』という漫画が人気らしいが、これは白土の『カムイ伝』とはまったく関係ないらしい。江戸時代が舞台でもないし、忍者物でもない。
 ウィキによれば、『週刊ヤング・ジャンプ』に掲載されていた野田サトルの作品で、明治末期の北海道・樺太を舞台にした金塊をめぐるサバイバル・バトルという。
 主人公は元陸軍兵とアイヌの少女で、カムイとはアイヌ語で「神」なのであった。
 ゴールデンカムイ=金の神=金塊ってことか・・・・。
 面白そうなので、そのうち機会あったら読んでみたい。

 カムイがアイヌ語とは気づかなかった。
 となると、『カムイ伝』の舞台は東北あたり?
 たしかに正助の暮らしている日置藩の村の名は花巻である。
 冬には雪がそれなりに積もっている。
 岩手県なのか?

 しかし読み進めていくと、海には鯨が泳いでいるし、寒さに弱い綿花の栽培も行っている。
 ネットで調べてみたら、大阪の岸和田という説や紀州和歌山という説もあった。
 白土はあまり細かく設定しないで描き始めたようだ。

 白土の性格なのか月刊連載だったためなのか分からないが、『カムイ伝』の話の設定や構成自体はかなり大まかなところがある。(カムイが双子だったのにはびっくり)
 登場人物が多いうえに話があちこち飛ぶ。場所だけでなく時間も飛ぶ。
 すっかり忘れた頃に途中で終わったエピソードの続きが出てくるので、「ああ、そうだった。この一騎打ちは途中で終わっていたんだっけ・・・」と思うようなことも多々ある。
 リアルタイムで連載で読んでいた人は、よく話についていけたなあと思う。
 10巻まで読んできて、ソルティは誰が味方で誰が敵なのか、誰が非人で誰が百姓なのか、誰と誰が血縁関係にあるのか、よく分からなくなってきた。
 ウィキ『カムイ伝』の登場人物一覧をプリントアウトして、コミックに挟んで読んでいる。
 
 それにしても、白土の絵はクセがすごい
 絵の上手さはこの時代の漫画家としては当然のこととして、個性が際立っている!
 これほどアクの強いタッチには滅多にお目にかかれまい。
 非人や百姓の暮らしぶり、人が斬られる場面(体の一部が千切れる絵が多いこと!)、それに弱肉強食の自然界の描写には残酷なまでに生々しいリアリティがあるのだが、それらも含めて作品全体が墨絵のようなスタイルで統一されている。
 それが、江戸時代の農村を描いた話というレベルを超えて、なにか壮大な寓話めいた印象を作品に付与している。
 あくまでも白土ワールドの中の江戸時代であり、士農工商であり、非人であり、忍者であり、男であり女であるのだ。
 フランスの文豪バルザックは、自らの小説中の人物をあまりにリアルに創造したため、晩年には自らの創作したキャラと現実世界の人間との区別がつかなかったと聞いたことがある。自らバルザック・ワールドを生きていたのだ。
 白土もまたそうだったのではなかろうか。
 
 カムイたちが使う忍術の物理的あり得なさ(たとえば分身の術)や、どうしたってバレて当然と思われる変装に相手がいとも簡単に騙されてしまう不可解さ(たとえばカムイ=美形剣士・鏡隼人)――こういった漫画ならではの奇想天外な非リアリズムと、封建社会の矛盾を突く写実的リアリズムとが両立しうるのは、読む者もまた白土ワールドの住人になってしまうからだろう。