2015年日本
126分

 原作は吉田秋生の同名コミック。
 鎌倉の古い家で暮らす四姉妹のありふれた日常を描く。

 谷崎潤一郎『細雪』、オルコット『若草物語』、向田邦子『阿修羅のごとく』、橋田寿賀子『渡る世間は鬼ばかり』の例に見るように、四姉妹ものは面白い。
 二姉妹、三姉妹だと関係がきつくなりやすい。オースティン『高慢と偏見』のような五姉妹になるとさすがにうざったいし、一人一人を十分には描き切れなくなる。
 作り手の立場からすれば、それぞれの個性や魅力を打ち出しながら、適度の距離とバランス良さでストーリーを組み立てるのに四姉妹は頃合いなのだろう。
 これが故石原慎太郎家のような四兄弟だとジャンルが異なる。
 曽我兄弟、カラマーゾフの兄弟、ウルトラ兄弟・・・・兄弟が主役になるドラマは、敵討ちとか決闘とか人殺しとか、どうも物騒なものになりやすい。
 ジェンダーの違いというのは、“きょうだい”関係にもっともよく現れると思う。
 
 ここでの四姉妹もバランスよく、それぞれに魅力的である。
 しっかり者の長女・幸(綾瀬はるか)、酒と男が生きがいの二女・佳乃(長澤まさみ)、不思議ちゃん系でのんびりの三女・千佳(夏帆)、そして三人とは腹違いの四女・すず(広瀬すず)。
 産まれ順による典型的な性質があるところに、四者四様の個性が合わさって、観ていて楽しい。
 綾瀬はるかの凛とした美しさと、広瀬すずの取れたてのスモモのような美少女ぶりは特筆に値する。

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左から、綾瀬はるか、広瀬すず、夏帆、長澤まさみ

 他の役者では、樹木希林、風吹ジュン、大竹しのぶが上手い。
 三姉妹を置いて再婚相手のもとに逃げただらしない母親を演じる大竹しのぶは、喋り方はもちろん、姿勢や着付けや歩き方から見事な役作りを見せている。
 出番はさほど多くなく、叔母役の樹木希林とあまり絡んでいないのだが、二人ががっぷり四つに組んだら、どんな芝居合戦になったことか。 
 名女優2人の共演は実写ではこれ一本だけのよう。
 その意味でも貴重なフィルムと言える。
 
 カンヌ映画祭で評価された黒沢清『岸辺の旅』同様、音楽が西洋風である。
 『ベニスに死す』で有名になったマーラー第5番のアダージェットや、エンヤを思わせるヒーリング系のBGMが連なる。(音楽は菅野よう子)
 ヨーロッパの観客を意識しているようで、そこはちょっと興ざめ。
  
 
 
おすすめ度 :★★★

★★★★★
 もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損