場所 メトロポリタン歌劇場(ニューヨーク)
指揮 ジェイムズ・レヴァイン
映像監督 ブライアン・ラージ
演奏 メトロポリタン歌劇団管弦楽団
合唱 同合唱団
キャスト
アイーダ : アプリーレ・ミッロ(ソプラノ)
ラダメス : プラシド・ドミンゴ(テノール)
アムネリス: ドローラ・ザジック(メゾソプラノ)
アモナズロ: シェリル・ミルンズ(バリトン)
ランフィス: パータ・ブルチェラーゼ(バス)
エジプト王: ディミトリ・カヴラコス(バス)
演奏時間 156分
過去に発売された数多くの『アイーダ』ライヴ映像の中で、トップクラスの質の高さと言っていいだろう。
歌良し、芝居良し、指揮良し、オケ良し、演出良し、映像良し、すべてが及第点に達している。
80~90年代のMETのパワーを感じさせる傑作である。
特に素晴らしいのは歌手。
アイーダ役のアプリーレ・ミッロはやはり大物であった。
戦と恋に翻弄されるエチオピア王女の劇的人生を歌いきるのに過不足ない力強い声と豊かな表現力、そして堂々たる風格を兼ね備えている。
当時のMETでは、レオンタイン・プライス――ヴェルディ歌いとして世界中で称賛を浴びた黒人歌手。1985年引退――を継ぐ「本命アイーダ登場!」と思われたのではなかろうか?
第3幕冒頭のアリア『おお、わが故郷』などドラマチックにしてリリカル。絶品である。
もう少し長く歌い続けて、『ノルマ』に挑戦してほしかった。
ミッロに一歩も引かず健闘しているのはアムネリスのドローラ・ザジック。
こちらは歌手生命長く、つい最近まで舞台に立っていた(2020年引退)。
立派な声の持ち主であるのみならず、第一級の歌手であり名女優である。
尊大でわがままなエジプト王女アムネリスが生涯はじめての一途な恋をした。だが、思い人のラダメスの心はアイーダにある。嫉妬が憤りに変わり、ついに愛する人を自ら死に追いやってしまう。
アイーダの敵役として、相思相愛の二人の恋の邪魔者として、聴衆から憎まれても仕方ないこの役を、ドローラ・ザジックは恋に苦しむ一人の純情な娘として彫琢し、いま一人の悲劇の主人公として聴衆に同情させるのに成功している。
終幕で聴衆は、絶望の淵に沈むアムネリスの姿に、自らの失恋体験を重ねて涙さえするだろう。
実際、主役がどっちかわからなくなるほどの熱演・絶唱である。
ザジックは『トロヴァトーレ』のアズチェーナでも他のメゾの追随を許さなかった。
ソルティが観たのはパヴァロッティ共演の88年METライヴ映像と、アンナ・ネトレプコ共演の2015年METライヴビューイングであるが、どちらも千両役者と言うにふさわしい名演である。
アムネリス&アズチェーナ歌いとしては、エベ・ステニャーニ⇒ジュリエッタ・シミオナート⇒フィオレンツァ・コソット⇒ドローラ・ザジック、という系譜をたどることができよう。
ラダメス役のプラシド・ドミンゴ、アモナズロ役のシェリル・ミルンズは、ベテラン大スターとして舞台の格をいやがおうにも高めている。安定した実力。
もう一人のベテラン、祭司ランフィス役のバータ・ブルチュラーゼの地の底から響くような深いバスは、残酷な運命の導き手のような印象を醸し出して、物語を悲劇に色づけるモチーフ(動機)のような役目を果たしている。
第2幕第1場で、アイーダとアムネリスはタイマンを張る。
英雄ラダメスを巡る、女と女の、女王と女王の意地とプライドをかけた闘いのゴングが鳴る。
このシーンで、びっくりの演出がある。
「あっ、やった!」
アイーダとアムネリス
この直後にアムネリスは思わず手を上げて・・・
この直後にアムネリスは思わず手を上げて・・・