2012年日本
134分

 「原作者の梶原一騎が生きていたら、この映画を許さないだろうなあ~」と思いながら観ていた。
 なんとミュージカルコメディ仕立て『愛と誠』である。
 太賀誠が、早乙女愛が、石清水弘が、蔵王権太が、歌って踊ってボケをかます。
 それも『激しい恋』(西城秀樹)、『酒と泪と男と女』(河島英五)、『あの素晴らしい愛をもう一度』(加藤和彦と北山修)、『夢は夜ひらく』(藤圭子)、『また逢う日まで』(尾崎紀世彦)といった歌謡曲全盛の70年代ヒットナンバーである。
 花園学園の不良番長・座王権太(伊原剛志)が『狼少年ケン』の主題歌(これは60年代だが)を歌いながら、宿敵・太賀誠に迫るシーンなど抱腹絶倒の面白さであった。

IMG_20220712_144033
『狼少年ケン』を歌う蔵王権太(伊原剛志)
みな高校生という設定である

 梶原一騎が『週刊少年マガジン』(講談社)に連載していたのは1973~76年。
 それから40年経った2012年時点で、あの「純愛+熱血+暴力」学園ドラマを原作のテイストそのままに映画化するのは、いろいろな意味で難しいだろう。
 演者が真面目にやればやるほど、お笑いになってしまいかねない。
 それならば、最初からパロディ風の味付けをして「70年代風俗をみんなで楽しもう」というノリは正解と言える。
 一方、『愛と誠』の中心テーマである「命を賭した純愛」はしっかり描き込まれており、観る者の涙腺を刺激するあたりも抜かりない。
 ソルティはバイオレンス映画を好まないので、三池崇史監督の作品をほとんど観ていないが、これ一作とっても監督の才能の凄さが分かる。
 
 出演者で何と言っても素晴らしいのは、スケ番ガム子を演じる安藤サクラである。
 この人は本当にどんな役でもやれるのだ。
 美人女優という枷を最初からを逃れていることが、この人の場合、いい方向に作用した。
 枠を設けない役選びとチャレンジ精神に感服する。 
 実際にはそれほど背の高くない女優だが、本作ではまるで和田アキ子の大阪スケ番時代とでもいったような風格を見せる。デカく見えるのだ。
 カメラや演出の工夫もあるとはいえ、身長の印象さえも変えてしまう演技力には脱帽する。
 この安藤サクラを見るだけでも、この映画を観る価値はある。

 早乙女愛役の武井咲、岩清水弘役の斎藤工も熱演である。
 個人的にひとつ残念だったのは、影の大番長・高原由紀がいつも持ち歩いている本のタイトルをちゃんと示さなかったこと。
 ツルゲーネフ『初恋』である。

本とナイフ

 
 
 
おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損