1954年松竹
98分、白黒
美空ひばり主演ということで、旅芸人の少女に扮したひばりが、伊豆の名所をバックに子供離れした歌を披露するアイドル歌謡映画を想定していた。
が、見事に裏切られた。
が、見事に裏切られた。
これまた非常に質の高い一篇に仕上がっている。
ひばりの歌はBGM風に2曲ほど流されるだけで、ここではしっかり一人の役者となっていた。
それにしても17歳にしてこの芝居の上手さ、貫禄。
やはり天才と言うほかない。
上手すぎるのがかえって、生娘である踊子から初々しさを奪ってしまっていると感じられるほど。
恐れずに言えば、ルックスやスタイルの点では、吉永小百合や山口百恵の踊子にはひけを取る。
学生が(観客が)一目惚れするには説得力に欠けるように思われる。
ひばりファンは絶対そうは思わないだろうが・・・。
野村芳太郎監督は『五辯の椿』『砂の器』『事件』『疑惑』『八つ墓村』『八甲田山』などカラー映画で代表作が目白押しなので、そうとは気づかなかったが、白黒映画も実に上手い。
いや、白黒映画にこそ本領が発揮されているかもしれない。
いや、白黒映画にこそ本領が発揮されているかもしれない。
たとえば天城峠に降る雨の風景など、白黒だからこそ出せる抒情性が本作には横溢して、実に見応えある。
老人や子供などの演出も滅法うまい。
音楽の木下忠司(木下惠介監督の実弟)はさすが地元出身だけあって、見事な叙景音楽を添えている。
1963年の西河克己監督『伊豆の踊子』が踊り子役の吉永小百合に焦点をあてているのにくらべ、本作の焦点は意外にも大スターひばりではなく、学生役の石濱朗にあたっている。
何より、ひばりよりも石濱朗のアップが断然多いのだ。
そしてまた、当時19歳の石濱ときた日には、アップが決まる貴公子然とした美貌の主である。
眼光けざやか目鼻立ちのくっきりした顔立ちは誰かに似ているなあと思ったら、菅田将暉であった。
菅田将暉に気品と落ち着きを加えた感じか。
こんなに美しい男優とは思わなかった。
学生役の石濱朗
学生(私)に焦点を置くという点では、小百合バージョンよりも川端の原作に近いのではないかと思う。
高橋英樹の学生にはなかった鬱屈や孤独が石濱の学生には付与されて、孤児根性に苦しんだ若き日の川端青年により近い。
心なしか石濱の眼光のきらめきも、フクロウのようなギョロ目で相手をじっと見据える癖があった川端自身を彷彿とさせる。(ただし、川端は美男ではなく、若い頃は容貌コンプレックスの主だった)
考えてみれば、若き川端の実体験を書いた『伊豆の踊子』は本邦の恋愛小説の代表作の一つとみなされているのだけれど、若い二人は手も握らなければキスもしない。(であればこそ、清純派アイドルが演じられる)
いやいや、互いに思いを打ち明けもしない。
ほんの4泊5日の旅の道連れに、恋が始まり、別れがやって来る。
それがこうして小説となり、映画に(6回も!)なり、今日に至る伊豆のシンボルにもなるのだから、実らなかった恋のポテンシャルというのも馬鹿にならない。
こうなったら、鰐淵晴子、田中絹代、内藤洋子ら他の踊子の映画も観たい。
第7波が下火になったら、天城越えの旅に出たいものである。
おすすめ度 :★★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損