2021年アメリカ
116分
50代半ばで亡くなった人気作家栗本薫(1953-2009)の膨大な作品の中に『時の石』というSF短編がある。
宇宙から落ちてきた謎の石を手にすると、自分が一番幸福だった「時」の記憶が生々しくよみがえり、その中に埋没できる。ただし、石を使いすぎると「過去」に取り込まれてしまい、廃人のようになって「現在」を生きることができなくなる。
その石を拾った思春期の少年たちの心模様や友情を描いたほろ苦い青春小説でもある。
本映画を観て『時の石』を思い出した。
Reminiscence とは「回想」の意。
人の記憶を再現し誘導する催眠術師のようなスキルを持つニック(ヒュー・ジャックマン)のもとには、自分が一番幸福だった時の記憶に浸りたい、という依頼者が絶え間なくやって来る。
頭に電極をつながれた依頼者たちは専用のポッドに入って液体に浮かぶ。
ニックの誘導によってよみがえった彼らの記憶は、( ① )を利用した立体映像となってニックの目の前の円盤上に現れる。
つまりこれは、他人の記憶を読むことができる装置で、もともと犯罪捜査に使われていたのである。
舞台は地球温暖化により海面が上昇した近未来のマイアミ。
人々の生活は昼夜逆転している。日中はあまりに熱い。
ある夜、ニックの仕事場にメイという名の美しい女がやって来る。
失くした鍵の在りかを知りたいので、記憶を探ってほしいという。
それをきっかけにニックとメイ(レベッカ・ファーガソン)の燃えるような恋愛が始まる。
それはまた恐ろしい罠と街の命運にかかわる事件の始まりであった。
それはまた恐ろしい罠と街の命運にかかわる事件の始まりであった。
水没したマイアミを背景に抱き合うヒュー・ジャックマンとレベッカ・ファーガソン
SFフィルムノワールとでもジャンル分けしたい作品である。
高度のCG技術というかVFX(ビジュアルエフェクト)を駆使した犯罪映画という点で、ハリソン・フォード主演の名作『 ② 』を想起した。
また、突然消えた謎の女の行方を必死に捜す男というプロットが、( ③ )作の古典ミステリー『幻の女』を連想させる。
水没している都市の映像であるとか、( ① )の技術の応用であるとか、とにかく最新の映像技術に驚嘆する。
いまや映像化できない物語はこの世に存在しないと思われるほど。
が、逆に言うと、それがすべての映画である。
VFXを取り除いてしまうと、二番煎じ、三番煎じのありきたりなストーリーで、『 ② 』との相似をはじめ既存の映画との既視感(デジャヴュ)がすごい。
最終的にメイを失って傷心したニックが、メイと過ごした幸福な時間の再現を求めて自らポッドの中に入ってしまう。すなわち、「時の石」に囚われて残りの人生を捨ててしまうという“後ろ向き”の結末も、「なんだかなあ」という気がする。
さて、上記の文章の①~③に入る単語はなんでしょう?
実はこの記事を書くにあたって、ソルティがどうしても思い出せない、記憶から取り出せない単語が、この3つであった。
記憶力の減退は苛立たしいけれど、嫌なことを含め適度に忘れることができるから、人は人生を“前向き”に生きられるのかもしれない。
美しい思い出に浸るのもたまにはいいけれど、やりすぎると毒である。おすすめ度 :★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損