1963年日活
93分、カラー

 石坂洋次郎原作『青い山脈』は過去に5回映画化されている。
 それぞれの監督と主要登場人物の配役を並べると、

監督(制作年・制作会社)
 ① 今井正(1949東宝)
 ② 松林宗恵(1957東宝)
 ③ 西河克己(1963日活)
 ④ 河崎義祐(1975東宝)
 ⑤ 斎藤耕一(1988松竹)

島崎雪子:東京から来た女教師。封建的な地方の女子高の職員室で孤立する。
 ①原節子 ②司葉子 ③芦川いづみ ④中野良子 ⑤柏原芳恵

沼田玉雄:町医者。女子高の保健室の先生でもある。雪子先生にビンタされるもラブになる。
 ①龍崎一郎 ②宝田明 ③二谷英明 ④村野武範 ⑤舘ひろし

寺沢新子:都会から来た活発で気の強い女子高生。封建的な女子高の教室で孤立する。
 ①杉葉子 ②雪村いづみ ③吉永小百合 ④片平なぎさ ⑤工藤夕貴

金谷六助:金物屋の息子。ただいま浪人中。新子とラブになる。
 ①池部良 ②久保明 ③浜田光夫 ④三浦友和 ⑤野々村真

梅太郎(笹井とら):色っぽい芸者。沼田にホの字。物語の狂言回し的存在。
 ①木暮実千代 ②淡路恵子 ③南田洋子 ④星由里子 ⑤梶芽衣子

ガンちゃん(富永安吉):玉雄の親友の大学生。コミカルな三枚目。
 ①伊豆肇太 ②太刀川洋一 ③高橋英樹 ④田中健一 ⑤不明

笹井和子:とらの妹。元気でおしゃまなメガネっ子。
 ①若山セツ子 ②笹るみ子 ③田代みどり ④木村理恵 ⑤池田純子

 ソルティがこれまでに観たのは75年の(三浦友和×片平なぎさ)カップリング版。
 なぜ、三浦友和×山口百恵の黄金コンビでなかったのかは不詳である。
 想像するに、同時上映が『花の高2トリオ 初恋時代』(森永健次郎監督。森昌子・桜田淳子・山口百恵共演)だったので、百恵がダブらないようにということか。
 そしてまた、元気溌剌で男勝りな新子役は、大人っぽく陰のある百恵には合わなかったろう。 
 
 今回見たのは西河克己監督によって撮られた③の日活作品。
 主役は当然、吉永小百合である。
 うっすらニキビある学生服姿のサユリが健康的で眩しい。
 女子高が舞台の話だが、もしここが共学校だったら、こんな美少女が転入した日には学校中大騒ぎになるだろう。
 沢口靖子の高校時代のように、他校の男子学生たちもこぞって覗きに来るのは間違いない。

 『伊豆の踊子』ではサユリ演じる踊子の初恋相手で真面目な書生役であった高橋英樹が、ここでは三枚目のバンカラ風大学生を演じている。シリアスもコミカルもこなせる器用な役者だ。
 代わって、サユリ(新子)の恋の相手役(六助)を務めるのが浜田光夫。
 とりたてて二枚目でもなく、男の色気あふれているというわけでもなく、なぜこの役者が人気あったのか、なぜサユリの相手役を44本も務められたのか、不思議な気がする。
 その平凡な風貌が、サユリストである男性観客たちの嫉妬を買わず、むしろ役柄投影を助けたからであろうか。
 つまり、「高橋英樹や渡哲也にはどうしたってかなわない。浜田光夫くらいなら俺だって張り合える。そしたらサユリと・・・・」という妄想をふくらませるのを助けたのか。
 
IMG_20220804_222031
浜田光夫と吉永小百合

 本作は、新子×六助の若いカップルと並行して、雪子×沼田の大人のカップルの関係が描かれる。
 芦川いづみの女教師雪子は凛として美しく、対する二谷英明も包容力ある二枚目ぶり。二谷は受けの演技が巧みである。
 芸者の梅子役で出ている南田洋子、婀娜っぽい姉さんで素敵。 
 一番びっくりしたのが、オールドミス――かつて「未婚の中高年女性」はこう揶揄された――の女教師を演じる北林谷栄。
 北林と言えば、『橋のない川』、『ビルマの竪琴』はじめ、日本を代表するお婆さん女優である。
 お婆さんでない北林を観るのははじめて。
 なんだか見ているこちらが気恥ずかしくなるほど、若々しく見える!

IMG_20220804_222129


 喧嘩だ、いじめだ、偽のラブレターだ(「恋」という字を「変」と書いたエピソードが有名)と、いろいろ騒動は持ち上がるものの、やっぱり牧歌的な空気あふれる爽やかな青春映画である。
 49年に公開された時は、戦前戦中の暗い青春を吹き飛ばし、日本中に希望と喜びを与えたであろうことは想像に難くない。
 ソルティが勤めていた老人ホームでも、藤山一郎が歌う主題歌は歌レクの一番人気だった。


 

おすすめ度 :★★★

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
★     読み損、観て損、聴き損