1990年エスエル出版会
1999年復刻版

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 副題は「朝日新聞連続襲撃事件の真相」
 朝日新聞記者であった樋田毅が被害者の身内の立場から赤報隊の正体を探ったのに対し、本書のポイントは、加害者と目された右翼の立場から、しかも当初警察によって作られた“最も怪しい容疑者9人リスト”にその名が上がっていた鈴木邦男が、真相を求めて推理を展開している点である。

 むろん、鈴木邦男は真犯人ではない。
 本書を読むと、「鈴木にはできないよなあ~」と思わざるを得ない。
 連続テロを仕掛けて正体がバレない、捕まらないでいるには、相当の緻密さと慎重さと専門的訓練、そして感情を制御できるサイコパス性が必要と思われる。
 本書の中に見る鈴木の文章や対談の語り口調からは、そういったものがまったく感じとれないのである。
 なにより自分がやったことを黙っていられる人ではない。
 9人リストから最初に落ちたのではなかろうか。

 被害者である朝日新聞社もそう思っていたようで、本書には朝日新聞編集委員で右翼に詳しい伊波新之助との対談が掲載されている。
 ここでも理路整然と冷徹に論を進める伊波に対して、鈴木の語りは全般情緒的にして文学的、伊波に突っ込まれると言葉に窮してしまう場面もみられる。
 胆力は別として、どっちが連続テロをできる資質を備えているかと言えば、まず伊波に軍配(?)が上がろう。
 
 思うに、右翼というのは任侠の世界と部分的に重なるところからも推察されるように、純粋で単細胞、理屈より行動、常識より義理人情、保身より捨て身、「自らを犠牲にして敵を討ちとって功を成す」こそ誉れであり、正体を隠しての連続テロのような知的犯罪には向かないのではなかろうか。
 本書で鈴木が繰り返し語っているのもまさにそこで、「赤報隊事件は右翼が起こしたものとは思えない」という点に尽きる。

 右翼の中では今回の事件は右翼と関係ないと思っている人が圧倒的ですよ。右翼の装いをして私憤をはらそうとしているヤクザなり暴力団なりの仕業ではないかと。

 右翼の行動にはいつも、なんらかの「臭い」とか「情緒」とか「精神」を感じさせるものがある。ところが今回はそれが全くなくて、「完全犯罪」というか、プロのやり方という感じ。
 
 新右翼でもなければ右翼でもない。また左翼的なものでもない。思想を訴えるためのものではありません。
 
 右翼の歴史というのは、みんな涙のあるテロリズムなんですね。無差別テロはやらないし、あくまでもトップを狙う。また、自分が犯行を犯したならば、それと同じような犠牲を自分も負う。血盟団でも、5・15事件でも、みんなそうでしょう。浅沼事件の山口二矢(おとや)しかり。みんな自決するか逮捕されて、出獄してきたら、殺した人の墓参りに行く。みんな情緒的で乾いていない。・・・・・・末端の記者を、それも無差別に近いかたちでやって、それで自分は逃げて、顔も現わさない。卑劣きわまるやり方だ。右翼はあんな卑劣なことはしませんよ。
 
 こうした感覚は、ひとり右翼関係者のみならず、被害者である朝日新聞社の取材陣の中にも、さらには捜査を担当した警察の内部でも共有されていたらしい。
 NHKが2018年1月28日に放映したNHKスぺシャル「未解決事件File.06 赤報隊事件」を観ると、事件を担当した元兵庫県警の捜査員が、極道方面から情報を得て、朝日新聞社に反感を持つ「ある宗教団体」の捜査に取りかかったところ、「上からストップがかかった」と語るシーンがある。(現在、NHKオンデマンドからはなぜかこの放送回がはずされている)

 事件の解決を阻んでいる勢力の存在を感じざるを得ない。





おすすめ度 :★★★

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★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損