2009年アメリカ
91分
和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を批判的に描いたドキュメンタリー。
コーヴ(cove)とは「入り江」の意。
主役はリック・オバリーという名のアメリカ人。
ソルティも幼少時に楽しんで観ていたTVドラマ『わんぱくフィリッパー』に出演していたイルカの調教師だった。
ドラマの世界的ヒットで一躍有名になり財を築いたが、調教していたイルカが鬱になって死んでしまったことをきっかけに改心し、一転、イルカ解放運動の闘士となってイルカの飼育や捕獲に反対するようになった。
今回、太地町が標的に選ばれたのは、世界各国の水族館や動物園に出荷されるイルカの多くがここで捕らえられているからという。
全編、イルカ漁の残酷さを訴える作りとなっている。
不快な音を立てて、イルカを湾の生け簀に追い込む。
ブローカーが水族館に売るイルカを選ぶ(一頭15万ドルとか)。
残りのイルカを三方を岸壁で隠された入り江に運ぶ。
朝焼けが水平線をおおう時刻、待機していた男たちが船を出し、数十頭のイルカを銛(もり)で突き、鉈(なた)で叩き、鳶口(とびくち)で舟に引き上げる。
断末魔のイルカの悲鳴が岸壁にこだまする。
入り江は真っ赤に染まり、文字通り「血の海」となる。
衝撃的な映像である。
イルカ好きの人にとっては、耳をかばい目を覆いたくなるような、吐き気を催すようなシーンであろう。
あんなに可愛くて賢くて無抵抗な哺乳類をめった刺しにするなんて!
ここはイルカのアウシュビッツか!
このシーンを取るために、オバリーら撮影スタッフは真夜中に人気のない入り江に忍び込み、水中や岸壁にカメラやマイクを仕掛ける。
それがあたかもスパイアクション映画のようなスリリングなタッチで描かれている。
映画の作り自体はまったくのエンターテインメントベースで、視聴者の関心をそそり、一瞬たりとも飽きさせず、情動を揺り動かすものとなっている。
訴求力ある構成や編集の上手さには舌を巻く。
それだけに、本作を観た世界各国の人が、日本人を野蛮で残酷な民族だと思い、日本は動物愛護の精神に欠ける後進国とみなすであろうことが危惧される。
はなからイルカ漁を悪と決めつけ、一方的に断罪する姿勢は、ドキュメンタリーというよりプロパガンダ映画に近い。
はなからイルカ漁を悪と決めつけ、一方的に断罪する姿勢は、ドキュメンタリーというよりプロパガンダ映画に近い。
他国の文化(食・職文化)への介入の是非、漁師たちの生活の問題、動物愛護の問題、自然環境や海産資源の保護の観点、汚染食品の出荷と体内摂取のリスク(イルカには基準値以上の水銀が含まれていると本編では主張している)、表現の自由と取材上の倫理や肖像権の問題、動物を飼育・愛玩・鑑賞することの是非、動物に順列をつけることの意味(なぜ牛や豚は良くてイルカは駄目なのか)・・・・。
いろいろな問題が絡んでいるので、簡単には結論づけることのできないテーマである。
ソルティがとくに気になったのは、イルカ殺しを請け負っている男たちの素性や思いである。
殺生シーンを観ていて浮かんだのは、能の『阿漕』や『鵜飼』であった。
これこそ日本人の古くからの文化的観念である。
外国人にこの感覚はなかなかわかるまい。
ソルティがとくに気になったのは、イルカ殺しを請け負っている男たちの素性や思いである。
殺生シーンを観ていて浮かんだのは、能の『阿漕』や『鵜飼』であった。
これこそ日本人の古くからの文化的観念である。
外国人にこの感覚はなかなかわかるまい。
もしこの先、イルカの肉を食べると寿命が延びるとか、イルカの赤ちゃんから取れる油には肌を再生する力があるとか、そういったことが科学的に判明した暁には、イルカの捕獲に先頭切って走るのはおそらくアメリカ人だろうなあ~と思う。
公開時は上映をめぐって各地で騒ぎが持ち上がり、上映中止や延期が続いたいわくつきの作品であるが、こうしてDVDになってレンタルビデオ店に並ぶようになったのだから、少なくとも表現の自由は守られている。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損