1970年松竹
93分

 『古都』『紀の川』の名匠・中村登の作品というので手に取ってみたが、脚本が橋田壽賀子とある。
 一抹の不安を覚えつつレンタルした。
 結果的に、名匠が『渡る世間』に食われて、陳腐なサスペンス風メロドラマに終始している。
 日本の庶民にとって海外旅行が希少だった時代にオーストラリアとフィリピンでロケを敢行し、観客に観光旅行の気分を味わってもらおうというサービス精神だけは買うべきだろう。

 当時25歳の吉永小百合が最新モードに身を包み、シドニーの街を巡り歩く。
 美しさや清らかさは言うまでもないが、演技がどうにも上っ滑りでいけない。
 『キューポラのある街』や『伊豆の踊子』で見せた溌剌たる生命力が、「万人に愛される可愛らしい女性を演じる」という窮屈なジェンダー枠の中で、不完全燃焼を果たしている。
 それがそのまま、大人になってからの小百合の演技の型になってしまったようだ。
 篠田正浩監督が岩下志麻を脱皮させたように、溝口健二監督や増村保造監督が若尾文子を磨いたように、吉田喜重監督が岡田茉莉子を開花させたように、女優としての吉永小百合を化けさせてくれる、つまり小百合の本質を見抜いて引き出してくれる演出家が日本にはいなかったのだろう。
 ソルティ思うに、小百合はいつも「女」を演じているのであって、「女」が演じているという感が希薄なのである。
 25歳の小百合の芝居はほとんど現在と地続きである。(と言っても、ここ10年あまりに撮られた小百合の映画を観ていないのだが)

 ちょっとした楽しみは、小百合演じる由布子を巡って恋の火花を散らすのが、石坂浩二と森次浩司の“Wコージ”であるところ。
 金田一耕助とモロボシダンが闘っているみたいに思えて愉快。
 役者陣で一番風格あって、作品の質を高めているのは香山美子である。
 この存在感なければ、作品は少女チックなままに終わってしまうところだった。
 
IMG_20220823_041105
石坂浩二と吉永小百合
赤ずきんちゃんのよう




おすすめ度 :

★★★★★ 
もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★  面白い! お見事! 一食抜いても
★★★   読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★    いい退屈しのぎになった
     読み損、観て損、聴き損