2006年イギリス、フランス、イタリア
104分
エリザベス2世女王の国葬がつつがなく終わった。
伝統に則った盛大で格式ある葬礼、弔問に訪れた多くの国民の悲しみと喪失感、亡き女王の偉大さをこぞって称えるマスコミ――それらをテレビやネットニュースで観ていて、「さすが大英帝国」と思ったけれど、一方、なんとなく違和感というか空々しさを感じもした。
1997年8月31日に起きたダイアナ妃の交通事故死直後の英国マスコミのセンセーショナルな報道や、それに煽られた一般市民のふるまいを覚えている人なら、きっとソルティと同じようなことを感じたと思う。
「あのときは、あんなにエリザベス2世を非難し、憎み、罵倒していたのに!」
「王室廃止の声さえ上がっていたのに!」
そう。スキャンダルまみれなれど、その美貌と博愛精神と人の心を一瞬でつかむ魅力とで人気絶大だったダイアナ妃の非業の死に際して、英王室とくに元姑であるエリザベス2世が何ら弔意を示さなかったことで、大騒動が巻き起こったのだ。
本作は、その一部始終をクイーンエリザベス2世の視点から描いたものである。
エリザベス2世を演じているのは、ロンドン生まれのヘレン・ミレン。
本作で数々の女優賞を総なめにしたが、それももっともの名演である。
君主としての威厳と気品のうちに英国人らしいユーモアと忍耐力を備え、国家と国民に対する強い責任感と、突然母親を失った孫(ウィリアム王子とヘンリー王子)はじめ家族に対する愛情を合わせ持った一人の女性を、見事に演じている。
その威厳は、ヘレンの父親がロシア革命の際に亡命した貴族だったせいもあるのだろうか。
時の首相であるトニー・ブレアに扮しているのはマイケル・シーン。
顔立ちは本物のトニーによく似ている。
左翼政権を率いた野心あふれる男の精悍さより、母性本能をくすぐる甘いマスクが目立つ。
ソルティはエリザベス2世をテレビで見るたびに、亡くなった祖母を思い出したものである。
冷静で強情なところ、ハイカラでファッショナブルなところ、職業婦人として自立していたところ(祖母は看護婦長であった)、賢明で物知りなところ、目鼻立ちにも似通ったところがあった。
久し振りに祖母を思い出した秋分の日。
おすすめ度 :★★★
★★★★★ もう最高! 読まなきゃ損、観なきゃ損、聴かなきゃ損
★★★★ 面白い! お見事! 一食抜いても
★★★ 読んでよかった、観てよかった、聴いてよかった
★★ いい退屈しのぎになった
★ 読み損、観て損、聴き損
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